5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



「2年の漆山海緒。この部で初のマネージャーだけど……お前ら、近づきすぎんなよ」


釘を刺すように冷たく言い放つ。
だが、部員たちの反応は予想通りのものだった。


「マジかよ、超美人じゃん……!」
「彼氏とかいんのかな。俺、狙っちゃってもいい?」

騒つく奴らを、俺は射殺さんばかりの視線で睨みつける。


「さっきも言ったはずだ。近づきすぎるな。この子は仕事をしに来たんだ、作業の邪魔になるような真似をしたら……分かってるな?」


部長としての威圧感を全開にする。
だが、その鉄壁のガードをすり抜けてくる男が、たった一人だけいた。


「えっ、転校生ちゃん! マネージャーになってくれるの? 嬉しいなあ!」


……まずい。忘れていた。
ここには佐原がいるんだった。

悪い奴じゃないが、こいつは誰に対しても距離感のバグり方が普通じゃない。
案の定、佐原は無邪気な笑顔で海緒のパーソナルスペースに踏み込んでいく。


『……っ、初めまして。2年の、漆山です。せ、精一杯……頑張るので、よろしくお願いします』


震える声で挨拶をする海緒を救い出すように、俺は強引に話を打ち切った。


「はい、紹介はここまでだ。各自、練習に戻れ! ほら、動け!」


散っていく部員たちを見たあと、素早く海緒に視線を移す。


……やっぱりだ。


海緒の手は、またしても痛いくらいに硬く握りしめられていた。

佐原は刺激が強すぎた。
開始早々、彼女を不安にさせてしまった自分に、猛烈な苛立ちが込み上げる。

守ると約束したばかりなのに、俺は何をやっているんだ。


「一旦、部室に行こうか」

『はい……』


落ち込んでいるのか、それとも想像以上に怖かったのか。
海緒の表情は、誰が見ても分かるほど暗く沈んでいた。

俺は彼女を部室のベンチに座らせると、目線を合わせるようにしてゆっくりと話しかけた。


「……ごめん。守るって約束したのに、怖がらせた」

『先輩はちゃんと守ってくれました!こんなことが起こるのは想定内ですし、謝ることなんてないです。守ってくれて、ありがとうございました』


海緒は無理に口角を上げて、俺を安心させるように微笑んだ。

けれど。


「……髪、耳にかけたの気づいてるか?」

『え?』


不意の指摘に、海緒がぱちくりと目を丸くする。


「お前が嘘をつく時の癖。……さっきから、何度も触ってる」


昨日からずっと、穴が開くほど見つめてきたんだ。

震える手を隠すために指を組み合わせる癖も、無理をしている時に髪をいじる癖も、全部焼き付いている。


自分を犠牲にしてまで俺を庇おうとする海緒の優しさが、今は何よりも、俺の胸をチリっと焼いた。