5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



今まで女としてきた約束の中で、何よりも重要で、
何よりも重いこの約束。

今まで破ってばかりだった、いくつもの空っぽな約束とはわけが違う。
今回は、命に代えても絶対に守る。


『そうと決まったら先生と……あと、部長の方にご挨拶しないとですね』


不安げに首をかしげる海緒に、俺は少しだけ口角を上げて告げた。


「部長は俺だから、大丈夫。……漆山 海緒。君を、男子テニス部マネージャーに正式に任命する」

『はいっ……精一杯、頑張ります!』


海緒の目はキラキラと輝いていて、
さっきまでの震えが嘘のようだ。本当に男が苦手なのかと疑ってしまうほど、その笑顔は眩しかった。


……でも、いけない。


ここで俺が油断すれば、また海緒をあの恐怖に突き落とすきっかけを作ってしまうかもしれない。

彼女の勇気に甘えず、俺が誰よりも警戒しなきゃならないんだ。


「今日から入部で大丈夫か?」

『……先輩がいいなら、私はいつでも』


「先輩」じゃなくて名前で呼んでほしい、なんて。
そんな贅沢な欲望は、今はまだ胸の奥に閉じ込めておいた。











そしていよいよ、放課後の部活の時間。
緊張した面持ちで、海緒は俺の背中に隠れるようにしてついてくる。

昨日までの俺なら、女を連れて部活に来るなんて考えもしなかったし、そんな奴がいたら真っ先に冷めた目を向けていただろう。


「……怖い?」


歩みを止めず、背後の彼女にだけ届く低い声で尋ねる。


『……先輩がいれば、大丈夫です』


その瞬間、心臓が跳ねた。
ニヤケそうになる口角を、力を込めて無理やり押さえつける。

今、このまま屋上に引き返して二人きりになりたいという猛烈な誘惑を振り払い、俺はテニスコートの入り口に立った。


「集合! 練習中断。……今日から入るマネージャーを紹介する」


俺が声を張り上げると、バラバラに動いていた部員たちが一斉にこちらを振り返る。

彼らの視線が、俺の背後にいる海緒に集まるのが分かった。

俺は一歩横にずれ、震える肩を隠すように、けれど堂々と彼女をみんなの前に立たせた。