5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。


『……本気、です。真面目に、考えました』


真っ直ぐに俺を見つめる瞳。

「今すぐ俺のところに来い」

喉元まで出かかった猛烈な欲望をグッとこらえ、
俺は無理やり冷静さを取り繕って言葉を返した。


「うちの部……確かにマネージャーはいないし、いてくれたらそりゃ、助かるけどさ」


一呼吸おいて、俺は彼女の核心に触れる。


「男子テニス部なんだ。そこにいる男は、俺だけじゃないよ」

『わ、わかってます……っ』


海緒は小さく震えながらも、言葉を絞り出した。
だけど、誤魔化しようのない事実が、彼女の膝の上にあった。


「今だって、また手をキツく握りしめてる。……海緒がそれをする時は、何かを必死に耐えてる時だろ」


昨日からずっと、俺は君を見てきたから分かる。
怖くてたまらないはずなのに、そこまでして俺の側にいたいと思ってくれているのか。

その健気さが、愛おしさを通り越して、胸を締め付けるほどに苦しかった。


「無理してまで、来る場所じゃないよ」


諭すような俺の声も、今の海緒には届かないほど、彼女の決意は固まっているようだった。


『……先輩は。先輩なら……もしもの時、守ってくれると思ったから……だめ、ですか……?』


HP0。俺の完全な負けだ。

そんなふうに縋るような瞳で言われて、拒めるはずがない。言い返す言葉も、逃げ道も、最初から用意されてなんていなかった。


「……分かった。精一杯、守ってやる」

『お願いします。約束……です』


スッと差し出された、海緒の小さな小指。
あまりにも無防備で、けれど今の俺たちには重すぎるその誓いの仕草に、動揺を隠せない。


「え……。いや、お前……男が怖いんだろ?」


こんな至近距離で指を絡めるなんて、海緒にとっては相当な恐怖なはずだ。なのに。


『先輩なら、大丈夫です。……約束、してくれますか?』


小指を差し出したまま、海緒は真っ直ぐに俺を見つめる。
自分でも気づかないうちに、海緒は俺の心の最も深い場所にまで入り込んでいる。

俺は覚悟を決めて、自分の小指を、その細くて白い指にそっと絡めた。


「……ああ、約束だ。指一本、誰にも触れさせねーよ」