『はい。学校の決まりで、どこかには所属しないといけないみたいで』
「なんか、入りたい部活とかあるの?」
『いえ、特には……。運動もできないですし、どこがいいのか分からなくて』
困ったように眉を下げる海緒。
……一応、俺はテニス部に所属している。
本音を言えば、自分の目の届く場所でマネージャーをしてほしいという気持ちはあった。
だけど、うちの部は男子テニス部だ。
男しかいない空間に身を置くなんて、男が苦手な海緒からしたら、ただの地獄でしかないだろう。
誘いたい。だけど、誘えない。
俺の独占欲を満たすために、彼女に怖い思いをさせることだけは、絶対に避けたかった。
「……そっか。まあ、無理して運動部に入る必要もないしな」
喉元まで出かかった「俺の部活に来いよ」という言葉を、俺は必死に飲み込んだ。
『最初は文化部に入ろうと思ったんですけど、その……昨日、先輩とお話した後に、呼び出してきた人たちがいたので……』
「あー……あいつらか」
脳裏に、海緒を囲んでいた女子たちの顔が浮かぶ。
あんのクソ女共。海緒が唯一安心して入れそうな場所を、嫌がらせ一つで潰しやがって。
俺の中で、静かに、けれど激しい怒りが再燃する。
『そこで、ひとつ考えたんですけど……聞いてくれますか、先輩』
海緒は膝の上でお弁当袋をぎゅっと握りしめ、覚悟を決めたように顔を上げた。
「……話してみ」
『先輩が所属してる部活の、マネージャーになろうかなって思っていて……。その、もし先輩が迷惑じゃなくて、運動部であれば、のお話なんですけど……』
「…………っ、ごほっ!」
かじりついていたパンが、驚きのあまり喉に詰まりそうになった。
今、この子はなんて言った?
あんなに男を怖がっていたはずの海緒が、
よりによって男の巣窟である運動部に、自分から飛び込もうとしているのか。
「……本気で言ってるのか?」
俺を助けるため、それとも俺のそばにいるため。
どちらにせよ、そのあまりに真っ直ぐな想いに、心臓が痛いくらいに脈打った。
