5月の雪が止む頃に、君が本当の笑顔を取り戻せるように。



『ごめんなさいっ……待たせちゃいました、か……?』


バタバタと焦ったような足音が響いたかと思えば、勢いよく扉が開いた。

そこには少しだけ髪を乱し、お弁当バッグを握りしめた海緒が、肩で息をしながら立っていた。


「ううん、全然。俺も今来たとこ。国語の先生、授業長くてさー」


なーんて、もちろん全部うそ。

実際は5分くらい前からここで待ってたけど、海緒との約束を考えれば、そんな時間は一瞬にも満たなかった。

だけど、お話したいって言ってくれたのは最高に嬉しいけど……実際、何を話せばいいんだろう。


『お昼、食べましょうか』

「ん、そうするか」


屋上のコンクリートに腰を下ろす。

海緒を怖がらせないように、あえて1人分以上の距離を空けて座った。

この「1人分」という空白が、今の俺たちの、もどかしくて大切にしたい距離だった。


「昨日のクッキー、めっちゃ美味かった」

『ほんとですか? よかった……』

「あんなの、そこらで売ってるやつより余裕で美味いよ。マジで店出せるレベル」

『ふふっ、それは大袈裟ですよ』


くすくすと喉を鳴らして笑いながら、お弁当を頬張る海緒。

ただ、彼女が笑って、食べている。
たったそれだけの光景なのに、油断すると目を奪われてしまいそうになる。

昨日まで、女の笑顔なんて記号にしか見えなかったはずなのに。


『そういえば今日……部活には必ず入ってもらうって言われました。マネージャーでもいいからって』

「……部活?」


不意に投げかけられた言葉に、俺の思考が一瞬で「警戒モード」に切り替わった。