「稟!」
彼女の幼馴染は急いで稟を追いかける。
だが、それよりも早く湊の体が動いて稟を追いかけた。
「待って!」
湊は稟に近づくと彼女の腕に手を伸ばして捕まえる。
稟は大人しく湊に捕まり前を向いて俯いたまま振り返ることはない。
「こっち向いて」
湊は稟の頬を両手でもって自分の方を向かせる。
稟はたくさんの涙を流しながら泣いていた。
「なんで...どうしたの?」
「湊が、響と...付き合ったって...」
「違う、付き合ってない」
「でも...」
「付き合ってないから。けどなんで稟が泣くの?」
「湊に彼女ができるの嫌だったから」
湊は稟の目から溢れ出る涙を指で拭いてから彼女を抱きしめた。
「俺は稟が好きだからそんな簡単に彼女できない」
「そっか」
稟は泣き止み湊の背中に腕を回す。
湊は稟の肩に顔を埋める。
二人は半年付き合ってこうやってハグをしたことがなかった。
湊は嬉しいものの、複雑だった。
「稟は俺のこと好きなの?」
「......うん」
稟はしばらく間をおいて返事をした。
「じゃあなんで」
抱きしめていた手を放して稟を見つめる。
「なんで俺のこと振ったの?」
「湊のこと好きかどうかわからなかったから。」
「えっ...」
「けど...湊が他の人と付き合うのは嫌だって思った」
「なんだよそれ...」
湊は、また、稟を抱きしめる。
「それならもう一回付き合ってくれる?」
背中に回していた手を腰に回して稟の目を見つめて言う。
「うん!」
稟はさっきまで泣いていたのが嘘のような笑顔で湊を抱きしめる。
「「あーあ」」
二人の様子を見ていた稟の幼馴染と響は同時に口を開いた。
それに二人は顔を見合わせて笑う。
「失恋しちゃったね」
「それは響もでしょ」
「ずっと好きだったんだけどなぁ」
「俺もだよ。ずっと稟しか見てなかったのに。」
二人はもう一度顔を見合わせて笑い合う。
失恋したのに何故か嬉しそうだ。
一日の終わりが最悪だった昨日と一日の始まりが最高な今日。
湊にとって最悪な昨日も大切な日だった。
