ニホンスイセン

教室に入る。
いつもより五分だけ早いだけなのに教室には湊一人だった。

窓際の前から三番目の自分の席に座って外を眺めると見慣れた人たちが校舎に向かって歩いてくるのが見える。

その中にはもちろん稟も。
彼女の隣には幼馴染だという男の子が。
笑いあって歩いている。

薄々わかっていたんだ。
彼女が彼のことを好きだということ。

それなのになぜ自分のもとにいるのか湊は不思議だった。

「おはよう!」

教室に入ってきた髙橋響の声が名前通り響き渡る。

「おはよう」

「なにー元気ないじゃん」

響は湊の席の前に立つ。

「別に」

湊は響から視線を外して窓の外の空を見る。

「あっわかった。稟の別れたからでしょー!」

湊は一瞬驚いた顔をしたもののすぐ真顔に戻って空を見つめていた。

「誰から聞いたの」

「稟だけど」

「へー」

「未練タラタラなんだぁー」

湊は何も答えなかった。答えられなかった。

「じゃあさ、新しい彼女作るのはどう?」

「そんな都合よく俺の事好きになる子なんかいないよ」

「大丈夫!私がなってあげるから」

驚いた表情で湊は響を見つめる。響は無邪気な笑顔を浮かべていた。

あぁ。からかっているだけだ。
それなら――

「わかった。よろしくね」

湊は頬杖をついたまま、悪戯な笑顔を浮かべて響を見た。

「本当に?決まりね!」

そう言うと響は自分の席に戻っていった。

決まりとはどういうことだろうか。
冗談ではないのか。

湊の頭には疑問が浮かぶ。

「あっ稟おはよう!」

響は教室に入ってきた稟に笑顔で駆け寄る。
湊は響の声を聞いて癖で稟を見ると彼女と目があった。
二人はすぐ視線をずらす。

「おはよう、湊ってまだ稟が好きなの?」

二人の様子を見ていた稟の幼馴染が湊の席まで来て話しかける。

「別に」

湊は彼の姿を目に入れることはせず俯く。

「何言ってるの、湊は私の彼氏だよ?そんなわけないじゃん」

響は湊と稟の幼馴染の話している様子を見て二人の間に入る。

「えっもう彼女作ったの。稟が可哀想」

「俺、響と付き合った覚えないけど」

「さっき彼女になってあげるって言ったらよろしくねって言ったじゃん!」

「あれは冗談だと思って――」

湊は稟の反応が気になって彼女に視線を移す。

稟は三人の会話を呆然とした様子で見ていた。

「...っ!」

そして湊と視線がぶつかると口元を隠して教室からでていった。

どうしてそんな顔するの?