ニホンスイセン

一日の終わりに櫻井湊はベッドに寝転がりスマホを見る。
ピロン
一件の通知が画面に表示される。
送り主は――麦野稟、湊の恋人だ。
湊は体を起こして稟から届いたメッセージを開く。
稟からメッセージを送ってくることが珍しく、湊は舞い上がっていた。

「別れよう...?」

舞い上がっていた湊とは裏腹に稟から届いたメッセージは二人の関係を終わらす内容のものだった。
読み間違いだと思い、湊は何度もメッセージを読み直すが何度見ても稟が送ったメッセージは”別れよう”の四文字。

湊は返信せず画面をただただ見つめている。

稟との思い出を振り返ってみるとデートの誘いも連絡を送るのも湊で告白も湊からしていた。
今思うと稟から”好き”というたった二文字の言葉も聞いたことがなかった。
初めから稟は湊のことが好きではなかったのかもしれない。

そう思うと湊の頬に涙が伝わりスマホの画面に落ちる。

湊は稟のことがまだ好きであるが「嫌だ」と送るのを湊のプライドが邪魔をした。
湊が送る「今までありがとう」で二人の関係は終了した。

もっと愛したかったのにそれすらも許してくれない。

もっと一緒にやりたいことがあったのに

一緒に何かをやらなくてもいいから、ただ君の隣で笑い合っていたかった

それも叶えさせてくれないなら一緒にいてくれるだけで良かった

隣にいるという存在が限りなく嬉しかったのに

体を倒して涙を拭くことはせずに閉じていく瞼を受け入れて眠りについた。


目を覚ますと、カーテンの隙間から差し込む光で部屋が明るくなっていた。
時刻は六時二分
湊は身支度を整えていつもより五分早く家を出た。
電車に乗るといつもと同じドアの前に立ち、イヤホンをしながら外を見つめる。

稟と付き合って6ヶ月と少し。

その半年はあっという間で電車から見る外の景色がどんどん変わっていくのと同じ様に過ぎていった。
電車は元の場所に戻っても二人の関係は戻ることがないだろう。

プライドなんて気にしないで「嫌だ」と素直に言うことができたなら。

ちゃんと理由を聞いて直せるところは直せる姿勢を見せていれば。

もっと彼女のことをしって楽しませていれば。

なんて後悔が頭の中を廻って零れ出そうになった涙をこらえるように目頭を指で摘んで下を向くと足元に雫が落ちる。

本当に好きだったんだけどな