色褪せて、着色して。Ⅶ~カンパニュラ編~

 トペニは私を見て、心底呆れた顔をした。
「大丈夫っすか? どこか具合が悪いんすか?」
「いやいやいや。なんでいるの? トペニもどうせオーロラ姫のところに行ったんじゃないの?」
「はい? なんで俺が他国の姫君のところに行かなきゃいけないんすか?」
 本人が言うとおり、トペニはイケメンである。
 整った顔ではっきりと言われたので。
「確かに」と納得してしまった。

 バニラも、スズメもオーロラ姫のところへ応援に行ってしまった。
 そして、先生もオーロラ姫の味方になってしまった。
 だから、トペニもてっきりオーロラ姫のところに行っていたのだとばかり思い込んでいたのだ。
「…ああ。もう…ごめん。とりあえず、散歩するわ」
「了解っす」
 にっこりとトペニが笑って言った。

 村と王族の敷地内の間に庭園がある。
 王家の庭園と比べてしまったら、はるかに小さいのかもしれないけど。
 色とりどりの花が咲いていて。
 薔薇のアーチがあって。見る人を楽しませてくれる。
 この庭園は村人も騎士も立ち入り自由で。
 でも、実際のところ。ほとんど人の気配はない。
 毎日、夕方になると。
 ここをバニラと一緒に散歩するのが日課なんだけど。

 いつもより、時間が遅いせいだろうか。
 西日が眩しく感じられた。
「やっぱり、花っていいね」
 なんだか年寄り臭いことを言ってしまうが。
 トペニは黙って頷くだけだ。
 整備された道を歩いていると。
 後ろに立っていたトペニが前に立った。
「誰かいるっす」
 腰に着けていた剣に手を添えたトペニに。
 お、ちょっと騎士らしくない? と嬉しくなってしまう。
 だが、聞き覚えのある声に。
「トペニ、隠れて」と慌てて草木に紛れ込んだ。

 西日のせいで、シルエットだけが見える。
 だが、私は耳が良い。
「なんで、オーロラ姫がいるの」
 しかも、オーロラ姫は立って歩いているではないか。
 よたよたと一歩一歩を踏みしめるように、進んでいるが。
 ぐらっと身体が横に傾いた。
「大丈夫ですか」
 側にいた太陽様がオーロラ姫を抱きかかえる。

「無理して歩かなくても大丈夫っすよ」
 …信じられないくらい優しい言葉だ。
 オーロラ姫は太陽様に抱きかかえられたまま、身動きを取らない。
 これ以上、見たくない。
 見てはいけない。

「トペニ、帰るよ」