色褪せて、着色して。Ⅶ~カンパニュラ編~

 久しぶりに怖い夢を見た。
 私は故郷の礼拝堂でピアノを弾いていた。
 いつも現れるはずの彼は現れず。
 扉の向こう側に誰かがいた。
 その人が…その人達が入ってこようとするのだけど。
 私は悲鳴をあげる…

「まじか…」
 ああ…と声が漏れた。
 

 食欲がないと。
 私は癖で、食べ物をフォークで突っつく癖があるらしい。
 バニラに指摘されるまでは、気づかなかったけど。
 私は無意識にプチトマトを突っついていた。
「あの、マヒル様。お願いがあるのですが」
 いつもは一緒に食事するのだけど。
 私が寝坊したので、バニラは台所にいて。
 今、私の横に立った。
「なあに?」
「当分の間、オーロラ姫のお食事の手伝いに行かせていただいてよろしいでしょうか?」
「・・・・・・は?」

 低い声が出て、慌てて口元を手で隠した。
 バニラの口からオーロラ姫という言葉が出るとは思わなかった。
「昨晩、オーロラ姫の侍女様からご相談を受けまして。侍女様はあまり料理が得意でない上に、この国での食材の調理法がよくわからないそうで…」
 うつむいて、フォークを置いた。
「暫くの間で良いので、お手伝いをしてほしいと…」
 ゆっくりと顔をバニラに向ける。
 めらめらと燃えるような真っ赤な瞳は真剣そのもの。
 この子は、意外と頑固で。
 お願いがあると言っておきながら、絶対に一度決めたことは貫き通す子だ。
 私が駄目と言っても。
 絶対にオーロラ姫のところに行くに違いない。

 ただ…
「いいんじゃない? おいしいもの作ってあげなよ。ご馳走様」
 私はバニラの顔を見るのが怖くなって。
 席を離れた。

 今まで、バニラを嫌いになったことなんて一度もなかったけど。
 心底、ムカついてしまったことを。
 反省すると同時に、どうしようもできないと気づいた。