色褪せて、着色して。Ⅶ~カンパニュラ編~

 我が家とあまり変わりない一軒家。
 マリアちゃんが「こんにちは~」と大声を出す。

 出てきたのは、オーロラ姫の侍女だ。
 何故、宮殿ではなく此処にいるのか。

 前回、向こうから呼び出しておきながら。
「おかえりください」と言われたことを思い出して。
 少々、ムカッとした気持ちになった。
「どうぞ」
 侍女は無表情のまま、中へ招いた。
 お妃様の侍女といい、この侍女といい。
 私は侍女に好かれない傾向があるようだ。

 部屋の造りは我が家に似ていた。
 玄関を入って廊下があり、左側の部屋に入ると。
 そこは真っ白な空間だった。
 真っ白な壁の前にオーロラ姫は座っている。
 ソファーまで真っ白で。
 ローテーブルはガラス制だ。
 部屋中が白いせいか。
 壁沿いに置いてある、アップライトピアノの存在にすぐ気づいた。
「どうぞ」と言われたので、私はオーロラ姫の前に座った。

「今日はお引越しのご挨拶と、前回のお詫びを兼ねてお呼びしました」
「引っ越しですか?」
 こっちが質問しているのをお構いなしに、オーロラ姫は侍女に何かを耳打ちした。
 その態度に、イラッとした気持ちが湧いてきてしまう。
 侍女は、太陽様を連れてきた。
 今の状況であんまり太陽様には会いたくなかった。

「宮殿に部屋を用意してもらったんだけど。私みたいなのがいたら・・・ね? 王家の人達には迷惑でしょうから。なるべく自然が多い家を用意してもらったの」
 ふふふとオーロラ姫は皺の刻まれた顔で笑った。
 頬骨が出て、異常なくらい大きな目は動物を連想させる。
「マヒル様がご近所だと聞いて、安心しましたわ」
 オーロラ姫の言葉に、心臓がドクリと鳴った気がした。
 初めて会った時から、このお姫様はイヤな感じだ。
 イライラした感情が顔に出てはまずいと目をそらして。
 ピアノを見た。
「ピアノ、弾かれるんですね」
「ええ。よく、気づきましたね」
 …弾くからピアノが置いてあるんだろ。

 胸の中で毒を吐く。
「わたくし、小さい頃からあまり部屋から出られなかったので。ピアノやヴァイオリンを弾いて、毎日を過ごしておりました」
「そうなんですか」
 感情のこもっていない声で言った。
 話せば話すほど、嫌いになりそうだ。
「ああ。太陽様から聴きましたが、マヒル様はプロのピアニストだとか」
 急に音量を上げてオーロラ姫が言った。
 私は黙り込む。

「ふふふ。ご夫婦そろってピアノが弾けるだなんて羨ましいわ」