色褪せて、着色して。Ⅶ~カンパニュラ編~

 なんとなーく気まずいなあと思っていたけど。
 翌朝、太陽様の姿はなかった。
 思わず、あははと笑ってしまった。
「お仕事はお休みとはいえ、事後報告書や書類の整理があるそうで。お出かけになりました」
「あ、そうなんだ」
 はあーと盛大にため息をついてしまった。
「って。これが太陽様だってーの!」
 思わず、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きむしってしまう。
 常に不在。
 それが私の夫、太陽様なんだから。
 何を期待しているんだ!!!

 もやもやした気持ちのまま。
 朝食を食べ終え。
 ピアノを調律し、ピアノを弾き続け。夕方に散歩をして。
 夜になれば騎士の人達からの曲のリクエストを受け付けて。
 真夜中のコンサート。

 ピアノの師匠…先生であるヒサメさんにスペンサー家での生活や。
 ピアニストとの対談についてまるっと全部報告して…
 ピアノを弾いてみせて、指導を仰いで…

 といった具合に3日間はあっと言う間に過ぎて行った。
 太陽様と顔を合わせることは、ほぼなかった。
 心の中のもやもやした嫌な感情は次第に膨らんでいった。
「セシルさん。すいません。次の任務が入ってしまいました」
 開口一番。
 よれよれの制服を着た太陽様が言った。
 朝食を取っていた私は。
 静かにフォークを置いた。
 舌打ちしてしまいたかった。
 心の底から、太陽様に対してイライラが湧いてきた。
「そうですか」
 私は太陽様から目をそらして、バニラに「ご馳走様」と言った。
「バニラさん、お世話になりました」
「まあ。そんな有難いお言葉を…。お仕事、大変でしょうがご自愛くださいませ」
 年下だというのに。
 バニラは大人だ。
 なんで、バニラみたいに身体に気を付けて。行ってらっしゃいと。
 言えないのだろう。

 玄関のドアがバタンと閉まる音を確認すると。
 バニラはじっとこっちを見てくる。
「マヒル様は素直になって良いと思いますよ」
 ギクッと心の中を読みすかされているようで驚く。
「素直って…仕事なんかしないで、私と一緒に過ごしてくださいって? 言えるわけないでしょ」
 と、口にして急に恥ずかしくなった。
「太陽様はもう、仕事人間だから。私ごときに時間を割いてもらうほうが無理なんだと思う」
「まあ、マヒル様ったら」
 うふふ…とバニラが笑う。
「なんで、笑うの?」
「いいえ。申し訳ございません。マヒル様があまりにも美しい表情をされたので」
「うん? 私はいつでも美しいけど」