柄が悪そうな奴に未桜の肩がぶつかって、
「何だよ、謝れよ!!」
と言われ
そいつのコトを俺は睨んだ。
「すみません」
小さな声で未桜は言った。
「アレ、見覚えあんじゃん!」
そう言って、俺の顔をそいつは覗き込んできた。
確か前に、俺がボコボコにした奴だった。
めちゃくちゃ弱い男だった。
「こら、やんのか?」
そいつが言う、
「怖いのダメだよ」
未桜が怯えるような、困ったような目で、そっと言う。
「可愛い子じゃねーか!!」
とあいつは未桜の肩に慣れなれしく、手を置いた。
「やめろ!!」
そう言って、力付くでその手を離させた。
俺はグッと奥歯を噛み締めた。
クソ〜悔しい!!
見えないようにそっと、拳を握りしめ、必死で自分を抑える。
「今日は大人しいじゃねぇか」
そう言って、俺の顔に一発殴りかかってきた。
俺はそれを黙って受けた。
相手の拳の衝撃と共に頬が痛む。
「辞めてください!」
と未桜が必死に言うが、聞こうとしない。
こんな、へなちょこパンチどうってことない。
さらに、そいつは俺の腹に何回も蹴りを入れた。
でも、ここでいつもの俺に戻って、コイツにやり返すのなんか、簡単だ。
喧嘩の必勝法を、俺は知ってるつもりだ。
こんな蹴り耐えられる。
闘ったら未桜の言った「怖いのダメ」が無駄になる。
未桜の怯えた視線を向けてた、アイツと同じになってしまう。
拳を硬く握りしめる。
「すみません……」
俺はどうにか言った。
情けねぇ。
自分が自分じゃないみたいだ。
「つまんねぇな、なんだコイツ」
相手はもうどうでもいい、みたいに睨みながら去っていった。
自分でも驚いた。
今まで、あんなシチュエーションがあったら、間違いなく喧嘩してた。
ああいう因縁つけてくる奴に、喧嘩吹っかけられたら、倍返しにヤッつけたくなる。
けど、未桜のあんな目を見たら……いつもの自分ではいられなかった。
気持ちを抑えた。
これからは、未桜を安心させたい。笑顔にしたい。
今までは、猫をかぶるように、「すみません」そんなこと一度だってなかった。
俺のこと未桜が、好きになってくれなくてもいいから……とにかく嫌われたくなかった。
「大丈夫?ごめんね。私があの人にぶつかって…守ってくれてありがとう」
そう言って、未桜は俺の唇の横の切れた傷をティシュで拭き取ってくれた。
「あ、ヘーキヘーキ、慣れてるから」
「え?慣れてるって……いつも喧嘩してるの?」
「あ、うーん」
俺は首を傾げてごまかした。
傷は痛むし、ホントの力を出したかったけど、でもそれじゃ、
不良=怖い へと繋がって未桜を遠ざけてしまう。
我慢するしかなかった。
あんな弱い奴に、やられる姿を見られるのは辛かった。



