桜の奇跡❀廉side

入院するようになり、病室から桜の木が見えた。

子供の頃から不思議な現象が起きていたことを思い出した。

ピンクの光は夜になると、うっすらと見えた。














抗がん剤治療が始まると、吐き気が辛く髪も抜けた。触ると大量に抜け落ちる。

ワタはそんな俺を見て、

「大丈夫だ……大丈夫だから」

そう、自分に言い聞かせるように俺に言った。


毎日のように、ワタは未桜のレジに並びサイダーを買って来てくれる。

それは俺が未桜に会えなくて寂しいぶん、ワタに様子を見てきてもらっていた。

未桜が接客し、触れたサイダーに触れたかった。


温もりとかはない。

けど何かで繋がっていたかったのかもしれない。

コンビニのビニール袋の持ち手が、クルクルとまとめられていると、未桜が接客した確率が高かった。

それをしない、バイトの人もいるから。

「なあ、未桜ちゃんに会わなくていいのか?」
ワタは心配してくれてる。

「もう、いいんだ」
俺は言った。

「一人で抱えこまないでくれよ。未桜ちゃんいつも俺に、お前のことを聞いてくるんだよ」

「俺は引っ越しした。そう未桜に言ってくれればいい。
いつも未桜のところに行ってくれて、ありがとう」
それだけで十分なんだ。

「俺は廉に生きている間に、未桜ちゃんに会って欲しいと思ってる」
ワタは真剣な眼差しで言った。


「こんなに痩せて、髪もなくなって会えねーから。こんな姿で会いたくねぇんだよ。未桜が悲しむだけだ!!」

そう言って俺は、テレビのリモコン、ティッシュの箱、歯ブラシやコップ、引き出しの中の財布や鍵も投げ出した。

しばらくして、冷静になれた。

完全にサイテーだ。何やってんだ?
ワタにあたってどうすんだよ。


「悪い、本当ごめん」
俺はワタに謝った。

ワタは鍵と一緒に落ちた、うさぎのキーホルダーを拾い上げた。

未桜とお揃いで買ったものだ。

「このキーホルダー、未桜ちゃんがバッグにつけてたの見かけた。

きっと未桜ちゃんはお前との思い出、大事にしてると思う。

まだお前のことを思ってるよ」
そう言ってワタはキーホルダーを俺に渡した。
男の子と女の子のうさぎが仲良さそうに微笑んでいる。

「そんなことねぇから」
俺は力なく言った。


「俺はもうすぐいなくなるんだ。
悲しい思いを未桜にして欲しくない」



「いなくなるなんて言うなよ。

未桜ちゃんと会えなくて、それでいいのか?ってしつこいくらい俺は思う。

後悔して欲しくないんだよ」

泣きながらワタは言う。




「もういいんだ。

聞いたことがあるんだけど。
人間って2回死ぬらしくて。

一度は肉体が亡くなること。2度目は語られなくなる死。

たまにでいいから、年に何回か俺のこと、思い出してくれよ」

静かに俺は言った。

ワタは泣き崩れていた。
俺よりもワタがいつも涙する。
ワタの中にはちゃんと俺が存在するんだ。
きっと、死んだ後にも。


未桜の花火大会の動画、文化祭やバイト帰りの何気ない写真、未桜との思い出が辛い治療を少しだけ救ってくれた。


死にたくない。

自分の体が、どんどん弱っていくのが怖かった。

だんだん、体重も落ちてきて、起き上がるのも辛くなってきた。

俺は紙に走り書きをした。

今の気持ちだ。






何でキス迫ったんだろう。

避けられたのショックだった。

最期にキスしたかったぁー!!



何で胃がんになんかなったんだ。

何で俺なんだ。

ああーもー悔しい。


未桜がめちゃくちゃ好きで、好きすぎるー。


未桜が隣にいないなんて……いられないなんて、そんなの嫌だ。

ラインだけでも……声だけでも…聞きたい。

会いたい。


付き合ってた頃の動画だけ、声も顔も見られる。

その一瞬だけは、彼氏だった頃に戻れる。

ほんと幸せだった。

ありがとう。


未桜と別れなければ良かった。

けど、未桜には幸せでいて欲しい。

だからこの別れしかなかったんだ。

もし、来世があるなら人間じゃくてもいい、未桜に会いたい。










それだけ書くと、その紙を抱きかかえた。
未桜を抱きしめる時みたいに。

誰にも見られちゃいけない。

俺はもうすぐ、この世界からいなくなる。

気持ちを書いただけ、少しだけ気分がスッキリした。

しばらくして、俺は紙をゴミ箱に捨てた。

この紙に書いたことは、嘘偽りがない。






一緒に年をとっていきたかった。

おばあちゃんになった未桜に、天国て会えるだろか?

一緒に生きていきたかった。

一緒にいられて、恋人になれて良かった。


未桜と誕生日もクリスマスも、一緒に過ごしたかったな。

もう叶わないけど。












病室の外の桜は、咲き始めていた。


大好きなサイダーも、もう飲めない。

ワタは別人みたいになった俺に、未桜に会ったほうがいいと言った。

未桜を連れてくるとも言ったが、俺は頑なに断った。

元気だった頃の俺を覚えていて欲しい。

思い出した時、こんな悲しい姿であって欲しくない。


「廉…桜の花さいてるぞ。
落ちてた花拾ってきた」
そう言って、ワタは俺に桜の花を渡した。

綺麗な桜に触れた。

今年は近くでは見られないと思ってた。

「ありがとう。ワタ」

そう言うと微笑んで、俺はまぶたを閉じた。