闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜

***

E棟の3階、端にある教室。
ガイダンス後のグループワークで、

「進行役、篠原さんにお願いしていい?」
「レポートのまとめも、やっておいてくれると助かる!」

と押し付けられるまま引き受けてしまった私は、
他の学生たちが喋りながら退室していく中、
一人教室に残っていた。


(こういうのって大体最後はなぜか、私に回ってくるんだよなぁ……。でも、みんなの役に立てるならいいか……)


ぼんやりとそんなことを思いながら、
レポート用紙にペンを走らせていたその時。


「美桜ちゃんって、真面目だね」


どこからか降ってきた声。
ふと顔を上げると、碧くんが横に立っていた。


「……え?」

「押し付けられてたでしょ?断ればいいのに、ちゃんとやろうとしてさ」

「……その方が、みんなが困らないで済むと思って」


そう言って再び手を動かすと、
碧くんは私の隣の席に腰掛けた。


「なら手伝うよ。一人じゃ大変でしょ?」


私のメモを覗き込み、
「ここ、俺まとめるから」と
そのままペンを取る。

私の中でバラバラだったメモが、
彼の手によって驚くほどきれいに整理されていく。


——颯以外の人に、ここまで助けてもらうのは初めてだった。


(なんだろう、この感じ……)


それはとても新鮮で、
心の奥がむず痒くなるような

不思議な気持ちだった。


***


碧くんが手伝ってくれたおかげで
レポートが完成し、私たちは誰もいない教室を出た。


「ねぇ、美桜ちゃんさ。もしよかったら連絡先交換しない?」


正門へと向かう道の途中、碧くんが私に言った。


(えっ……)


一瞬、躊躇(ためら)う。
けど、親切にしてくれたのに断るのも悪い気がして。


「……いいんですか?」

「むしろ断られたら、ちょっとショックかも」


冗談めかして笑う碧くんに、
私は戸惑いながらも自分のスマホを差し出した。



——ピコン。



通知音が、私たちを繋いだことを知らせるように鳴る。



「これで友達」



私たちの間を通り抜けるように春風が吹き、
桜の花びらが淡い空へと溶けていく。

碧くんの笑顔に、胸がじわっと温かくなった。