闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜

***



連れてこられたのは神社の裏手。


遠くで第一発目が打ち上がり、
夜空が華やかに彩られる。



「……綺麗……」



けれど頭の片隅にはずっと、
さっき碧くんから言われた言葉があった。



——心配してるっぽく見せてるけど、あの本みたいに美桜ちゃんの行動を狭めてる気がする。

——誰にも触れさせない、自分だけの”所有物”を見るような目に見えたけど。



(私、本当にこの人の隣にいていいんだよね……?)



顔を横に向けた瞬間、視線が絡む。


颯は花火には目もくれず、
ただ私だけをじっと見つめていた。


鮮やかな光が映るその瞳は、
吸い込まれそうなほど暗く、深い。




「……美桜、俺だけを見てろ」




花火の音にかき消されそうなほど、

小さな——けれど絶対的な(ささや)き。



彼は私の顎をくい、と持ち上げると、
ゆっくりと顔を近づけた。



「あんな奴に笑いかけるな。あんな奴からもらったものに、触れようとするな。……お前の世界には、俺一人いればいい」



鼻先が触れそうなほどの近さ。

心臓の音が、花火の音をかき消していく。



私は、彼の圧倒的な美しさと、

表裏一体で宿る獣のような執念に、



またもや思考を放棄した。




(あぁ、私——。)




その長いまつ毛の影が頬に落ちるのを見ながら、
私は静かに目を閉じた。



けれど、次の瞬間。




耳たぶが、優しく噛まれる。




それは、彼が残したあまりにも甘くて

口付けよりも”独占的”な「印」だった。




「……来年も、再来年も、これから先もずっと。お前の隣を、誰にも譲るつもりはないから」




夜空に咲く大輪の華よりも鮮明に、

私の心に刻まれる颯の言葉。



引き寄せられた瞬間、
碧くんからもらったりんご飴が、



手からするりと落ちた——



私は、その腕の中で震えていた。



『檻』という名の豪華な屋敷の中で、少女の世話をする使用人が、甘いデザートを差し出しながら彼女から『選ぶ』という自由をじわじわと奪っていく——あの本の物語。



私が今、



その残酷な一節を
なぞり始めていることに


微かな恐怖を感じながらも、


差し出された「甘さ」を
拒むことができずにいた。




——私の世界が削られても。彼の所有物になってしまっても。




この重く甘い檻から
逃げ出したいという気持ちよりも、



このまま彼の一部になってしまいたい
という欲望が勝ってしまったことに、



自分自身で絶望しながら——



***