闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜

***


夏の熱気と、
どこかから漂うソースの焼けた匂い。

賑やかな笑い声。


あっという間に空が群青色に染まり、
祭りの会場は、人混みで溢れ返っていた。


「ねぇ、あれ佐伯先輩!?」

「うっそ、浴衣姿もかっこよぎる……」


そんな黄色い声も、
周囲からの羨望の眼差しも。


颯は完全に無視し、私の右手を引いていく。



「……はぐれるなよ、絶対に」



繋がれた手は、
指と指が深く絡み合う——恋人繋ぎ。



(お兄ちゃんなのに、こんな繋ぎ方でいいのかな……)



繋ぎ方にドキドキしていると、
颯が何かを見て急に立ち止まった。



「お前、あれ好きだろ。食べたいか?」



視線の先にあったのは、ベビーカステラの看板。



「あっ、懐かしい!食べたいかも……!」



目を輝かせた瞬間、
颯がふっと目元を和らげて笑う。



「……言うと思った。人多いから、ここで待ってろ。……ついでに飲み物も買ってくるから」

「あ、私も行く!」

「いいから。お前は座ってて」



颯は私をベンチに座らせると、
私の手元をじっと見つめた。



「……その巾着、口が開いたままだ。さっきからスマホが落ちそうになってる」

「えっ、あ、本当だ……」

「人混みで落としたら大変だし、さっきバッテリーがないって言ってただろ? 俺のポケットで充電しておくから……ほら、貸して」



颯は私の手から自然にスマホを取った。

そして自分のモバイルバッテリーに
手際よく繋ぐと、そのまま人混みへと入っていく。


(……スマホまで預かって充電してくれるなんて。相変わらず、過保護だなぁ)


遠のいていく彼の背中を、
ぼんやりと見送っていた時だった。



「あ、いたいた」



ふいに聞き慣れた声が降ってくる。


こちらに向かって歩いてきたのは、
Tシャツに爽やかな夏のシャツをゆるく羽織った碧くんだった。


「碧くん……!」

「よかった。美桜ちゃんに少しでも会えたらいいなって思って、連絡したんだけど……全然出ないから心配してた」



昨日、彼は私から送った
断りのメッセージに、

『そっか残念! でも会場で見つけたら声かけるね』

と返してくれていた。



(本当に、私を見つけるまで探し回ってくれたんだ……)



胸が少し締め付けられる。



「ごめんね……颯にスマホ預けてて」



碧くんは一瞬驚いたように私を見ると、
「はい、これ」と手に持っていたりんご飴を私に差し出した。



「……美桜ちゃんに似合うと思って」

「え、いいの……?」



真っ赤に艶めく宝石のようなりんご飴。


私のために用意してくれたと思うと
嬉しくて、頬が少し熱くなる。


私が「ありがとう……」と言って受け取ると、
碧くんは私に顔を寄せて噂するように言った。