闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜



「……碧くん、ありがとう」


少しだけ熱い頬を誤魔化すように笑って返す。
すると、碧くんが「あ、そうだ」と何かを思い出すように言った。


「もうすぐ夏祭りあるし、みんなで行かない?実行委員の何人かで前から話しててさ」

「えっ、夏祭り? ……いいね、行きたい!」

「よかった。じゃあ、美桜ちゃんに——」


ちょうどその時、
机の上に置いていた私のスマホが震えた。



『今、講義終わった。学食で待ってる』



画面に表示されたのは颯からのメッセージ。



(あんまり待たせると探しに来ちゃうかも……)



「あっ、ごめん。ちょっと……私、もう行かなきゃ」

「え、もう?……分かった。じゃあ、夏祭りの件、また連絡するね」

「うん、ありがとう!」


何も追求せず、
ただにこやかに手を振ってくれる彼に、


私は手を振り返し、
慌てて荷物とカーディガンを腕に抱え学食へと急いだ。


***


——昼時の学食。


中に入ると、学生たちで溢れ返っていた。



そこに一人。



周囲の喧騒などには目を向けず、

窓際の一等席で足を組みながら
優雅にコーヒーを飲む颯の姿があった。



「今日も佐伯先輩かっこいい……!」

「学食でコーヒー飲んでるだけで絵になる……」



多くの女子たちが遠巻きに見つめる中、
熱い視線を遮るように私は小走りに近づく。




——その時。




一人の美女が、
意を決したように颯の前に立った。




「あ、あの! 佐伯先輩……っ! これ、読んでください!」




彼女が顔を赤くしながら手紙を差し出すと、
周囲が息を呑むように静かになった。


私も空気を読むように近くの柱の陰に隠れる。



(あれは……告白!? 颯、どうするんだろう……)



颯が、ゆっくりと顔を上げる。



そこにはいつもの眩しい

「王子様スマイル」が貼り付いていた。




「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ。せっかく用意してくれたのに……ごめんね」




あまりにも完璧なお断り。



でも。
柱の影から見る二人は美男美女で、
私が彼の隣にいるよりも彼女の方がお似合いだと思った。



(やっぱり、私以外にもちゃんと優しいんだ……)



初めてちゃんと見た颯のその”現場”に、
少しだけ胸が痛む。



けれど——。




「……やっぱり、好きな人いるんですか? 私、ずっと先輩のこと——」




女子学生が食い下がるように言った瞬間。


コーヒーが小さく”カタン”と
テーブルに置かれ、颯の顔から笑顔が消えた。




「悪いけど俺、君のこと知らないし、興味もないんだ。だからそれ以上、何を言っても時間の無駄だよ」




(——え。)



そこにあったのは、
低く、冷ややかでクリアなほどの無関心。




「でも……っ」

「いるんだよ。俺の人生を全部捧げてもいいと思える、たった一人の子がね。だから、君の入る隙間なんて一ミリも空いていないんだ。……わかったら、もう行けよ」




颯の見上げた鋭い視線に、
女子学生が泣きそうな顔で走り去っていく。



初めて見る、颯の「他人」への容赦ない顔。



冷酷でゾクッとするような恐怖と、
なぜか胸の奥が熱くなるような高揚感が残った。



(それって……)



颯はため息をつくと、視線を横に流した。

そして——



「……いつまでそこにいるんだ、美桜」



柱の陰にいた私を、正確に見つけ出した。