闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜

***

その日の夜。

「お祝いに、俺の部屋で夕飯食べよう」

颯が夕飯を振る舞ってくれることになった。


隣り合う201号室と202号室。


颯の部屋——201号室のドアを開けると、
そこには……


男子大学生の一人暮らしとは思えないほど、
完璧に整頓された空間が広がっていた。


「……わあ、相変わらず綺麗だね」

「そうか?」


家具はミリ単位で計算されているかのように正確な配置。

埃ひとつ落ちてない生活感を感じさせない部屋は、
なんだかモデルルームを見ているみたいだった。


部屋を見渡していると、テーブルに
私が大好きなオムライスが置かれた。


「わぁ、美味しそう!お兄ちゃん本当に料理上手だね」


颯がふっと嬉しそうに目を細める。


「一人暮らしだと、どうしても食生活が偏るだろ? だから、これからは美桜の健康管理も含めて俺が作ってあげるから、ご飯の時は一緒に食べよう」

「えー、でも毎食は大変だし……お昼は、外食もするだろうから自分でどうにかするよ」

「なら、朝と夜な。友達と食べる時は連絡忘れるないように。いいな?」


そう言って颯は、私に丁寧にサラダを取り分けてくれた。


彼はその後も甲斐甲斐しく
私の世話を焼いてくれるけど、

自分はほとんど手をつけず、
私が食べている姿を微笑みながらじっと見ている。


「どうしたの……?食べないの?」

「いや、やっぱりお前の嬉しそうな顔見てるのが一番だなって思って」


私を見つめるその澄んだ瞳に時々吸い込まれそうになる。
頬が少しだけ熱くなるのを感じて、私は笑いながら視線を逸らした。


(なんでこんなに料理もできて、優しくて面倒見もいいのに、彼女いないんだろう……)


目の前の食べかけのオムライスを見ながら、
ふとした疑問が浮かぶ。


さっきもマンションの前で
女子高生に声をかけられていたのに、笑って軽く流していたし、

ちらっと見えたスマホには何件もの通知が来ていたのに、
颯はずっと無視している。


けれどその疑念は、顔を上げた先にある笑顔に、
すぐに洗い流されてしまった。