闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜

***

大学に着いてから、私は碧くんを探した。

いつもなら遠くからでも目立つはずの姿が、今日はどこにも見当たらない。
その姿をようやく見つけたのは、午後になってからだった。


「碧くん!」


中庭のベンチに座っていた彼に声をかける。

顔を上げた碧くんからは、
いつもの陽気なオーラも、明るい笑顔も消えていた。


「あの、本ありがとう!直接返せなくてごめんね……」

「あ、いや……大丈夫」


どこか覇気のない声。逸らされる視線。
普段の彼とは明らかに様子が違う。


「碧くん? お兄……颯が、何か言ってた?」

「……」


碧くんは何かを躊躇うように、
私を一瞬だけ見てから話し出した。



「……お兄さんが『美桜が、もうこの本は面白くないし、自分には必要ないって言ってたから返すよ』って。あと……いや、何でもない」

「えっ……?」



颯が言ってたことと全然違う。
私には、「面白かったって伝えた」と言っていたのに。



「俺……距離感間違えてたのかなって。なんか、ごめん」



碧くんの無理やり作ったような
笑顔がぎこちなくて、胸がわずかに締め付けられる。


「そんなことないよ! いつも碧くんと話してる時すっごく楽しいし、本だって貸してもらえて嬉しかった!……だから、私そんな風に思ってないよ!」

「本当……?」


碧くんの表情がぱっと晴れていく。

その様子に少しだけほっとしたものの、
私の胸の中は曇ったまま、違和感は依然として
モヤのように残っていた。

***


——夕方。


正門で私を待っていた颯が、
いつも通り私の荷物を受け取るように手を伸ばす。


夕日に照らされたその顔は、どこまでも端正で、
やっぱり誰もが憧れる王子様そのものだ。


だけど——。



「……どうした? 暗い顔して」

「お兄ちゃん、碧くんに嘘ついたでしょ。……私、本が面白くないとも、必要ないとも言ってない」

「あぁ、また『碧くん』のことか。俺は美桜のためを思って——」



その時、私の中で何かが弾けた。