「あ……」
タコパの翌朝。
本棚に目を向けると、昨日までそこにあったはずの、
碧くんから借りた一冊がなくなっていた。
(昨日の片付けの時に、そういえばお兄ちゃんが「後で読ませてもらう」って言ってたな……。自分の部屋に持って行っちゃったのかな?)
そう思いつつ、私は隣の201号室へ向かった。
扉を開けた瞬間、
淹れたてのコーヒーのいい匂いが漂ってくる。
テーブルに並ぶのは、色鮮やかなサラダにフルーツ、
綺麗な形の目玉焼きとトースト。
ホテルラウンジのような完璧な朝食だ。
「おはよう、美桜。よく眠れたか?」
エプロン姿の颯が、朝から眩しいほどの
「王子様スマイル」で私を迎える。
「おはよう。……あの、昨日借りてた本、知らない?」
颯が私の前にカップを置き、
ゆっくりとコーヒーを注ぐ。
「ああ、あの本なら今朝、上城くんに会ったから返しておいた。お前は寝てたし、あの本……けっこう重そうだったから」
「えっ、返してくれたの? わざわざ……?」
「お前は今日一限からだろ? バタバタすると思ったからさ。『面白かった』って感想もついでに伝えておいたよ」
颯の気遣いはどこまでも行き届いている。
(でも……碧くんの家も連絡先も知らないはずなのに、どうしてそんなピンポイントで見つけられたんだろう。偶然会ったのかな?)
「ありがとう」と返して、
私は颯が淹れてくれたカップを口にした。
飲んだコーヒーからは、ほのかな苦味と
払拭し切れない違和感が広がった。

