闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜

***


颯がリビングに立った瞬間、視線が一気に集まる。
それまで騒がしかった空気が静まり返った。



「俺も混ぜてもらってもいいかな?」



颯は、誰がいるかを確認するように
一瞬だけ部屋の中を見渡すと、

完璧な「王子様スマイル」を向けた。


「えっ、やば!佐伯先輩じゃん!」

「うそ、本物!?」


一斉にざわめき出す。

颯は圧倒的な「月光」のような美しさと威圧感で、
碧くんの「太陽の光」を一瞬で飲み込んでいく。


彼はさりげなく私の隣を陣取ると、
反対側に座る碧くんをじっと見据えた。


「”上城くん”だったかな。……ガイダンス以来だね」

「はい。……佐伯先輩、今日も美桜ちゃんの面倒っぷり、良いですね」


碧くんが少し挑発的に笑うと、颯の眉がピクリと動いた。


笑顔なのに、二人の間に流れる空気は重い。

視線だけで火花が散りそうな、
短い沈黙が走った。


(まずい、焦げる……! たこ焼き焦げちゃうよ!)


「上城くんこそ、最近ずいぶん美桜と親しくしてくれているみたいだね。……何か、特別な理由でもあるのかな?」

「”理由”ですか? 単純に楽しいからじゃ、ダメですか?……それとも、兄妹仲が良いと『友達』ができるのは困るんですか?」


しかし今の二人に話しかけられる雰囲気はない。

私はただ、その”熱い”空気の中で、
目の前の焦げそうなたこ焼きをじっと見つめていた。


「心配なんだよね。美桜に付き(まと)う、君みたいな悪いむ——」

「あーーーっ!」


思わず私は颯の口を手で塞いだ。


(絶対ろくでもないこと言おうとしてる……!!)


その瞬間、私の手の中で、
颯の口が不敵に吊り上がった気がした。


「わ、 私! 早くたこ焼き食べたいな……!」


私は強引に話を逸らす。


「……そうか。なら、俺が一番いいやつを焼いてやる」


すると颯は慣れた手つきで竹串を動かしていく。
その仕草一つ一つが優雅で、もはやタコパが高級レストランのようだ。


「すげー」

「私も佐伯先輩が焼いたの食べたーい!」


彼は碧くんを完全に無視するのではなく、
あえて”完璧なもてなし”で圧倒しようとしているみたいに見えた。



「ぐ、具材もっと持ってくる!」



立ち上がり、キッチンに向かおうとした瞬間——



「わっ……!」



たこ焼き器のケーブルに足を引っかけ、視界が揺れる。