闇深兄の溺愛 〜甘いデザートには、一滴の毒を〜

***

——夜。

私の部屋は、明るいムードと熱気に包まれていた。
その中心にいるのは、もちろん碧くん。


「あ、美桜ちゃん、そっちの生地! こうやって外側からやって……」

「わ、意外と難しい……こう!?」


何度かひっくり返そうとするも、上手く回らない。
苦戦する私を見て、碧くんはくすっと笑った。


「貸してみ。ほら、こうやって」


碧くんが私の後ろから手を伸ばし、
私の持っていた竹串に手を添えた。

近づいた時にふわりと香った、
颯とは違う甘い香水の匂いに、

思わず心臓がドキッと鳴る。


「碧、ずいぶん篠原さんには優しいじゃん」

「あ、バレたか」


向かい側の男子からの冷やかしに、
碧くんはウィンクを返す。

そのチャラいけれど嫌味のないノリに、
場が一気に盛り上がっていた。


(颯といる、二人だけの静かな時間も好きだけど……こういうみんなで盛り上がる時間も楽しいな)


なんて、少しだけ浮足立っていた時だった。


ピンポーン。


インターホンが鳴った。



「……やば!」



気づいた瞬間、心臓が止まりそうになる。

玄関に走りドアを開けると、そこには案の定——


にこにこの満面の笑みで立つ颯がいた。



「美桜、晩飯でき——」



言葉が途切れ、颯の視線が私の後方へと回る。


「……お楽しみの最中だったかな?」


穏やかなのに、スッと温度の下がる声。


「お、お兄ちゃん……。その、今日は学科の——」

「こんにちは」


言い訳を終える前に、
背後からひょいと碧くんが顔を出した。


(ま、まずい……!!)


颯はただ静かに、いつもの貼り付けた笑顔だけを碧くんに返すと、私の手首を掴んだ。


「……まずは、”あっち”で晩飯でも食べよう」

「今がそのご飯中なの!!」


私は、颯に掴まれた手を抜こうとした。


(ぬ、抜けない……!?)


なぜか軽く掴まれていたはずの手が離れない。

その時、颯がリビングの方を見据えるようにして言った。



「なら、俺が行くしかないな」



(なんで!?)


颯は私の手をぱっと離すと、
そのまま碧くんの前を通過し、迷いなく部屋の奥へ入っていった。