「うん……!」
碧くんに笑い返したその時——
「もう終わったのか?」
背後からの声に心臓がドキッと跳ねる。
振り返ると、颯が立っていた。
「あ、お兄ちゃ……じゃなくて、颯!ゼミはもう終わったの?」
「ああ、少し早く終わった。……こちらは?」
颯が「王子様」の笑みを浮かべながら、
私に確認するように聞く。
「碧くんだよ!さっき私のレポート手伝ってくれたの」
「学科の子ともう仲良くなったのか。それはよかったな」
颯はそう言って私の隣に立つと、
私の腰をぐいっと勢いよく引き寄せた。
「うちの美桜を助けてくれたみたいで。ありがとう。……碧くん、だったかな?」
「あ、はい。佐伯先輩……ですよね。噂は聞いてます」
会話は穏やかなのに、
静かに二人の視線がぶつかる。
颯が向ける笑顔の中に、
碧くんを射抜くような冷ややかな瞳があった。
「美桜ちゃん……知り合い?」
私が答えるよりも先に、颯の乾いた笑い声が響く。
「知り合いなんて他人行儀な。こいつは俺の……まあ、妹みたいなもんだよ。俺がついてないと何もできない子だからさ、君が心配しなくても大丈夫だよ」
「あ、え……」
「な? 美桜。……さ、帰るぞ」
颯は碧くんに挨拶する隙も与えず、私の背中に手を添えるように歩き出した。
***
——夜。201号室。
暗い部屋は、モニターの光だけが
彼の冷たい無表情を静かに照らしている。
画面に表示されているのはSNSアカウント。
友人関係、写真、これまでの投稿……。
颯の指先は、「上城 碧」という人物の身元を、
隅々まで暴き出していた。
そして——
完璧な兄の仮面を被った”それ”は、
余計な枝を削ぎ落とすように、
次なる剪定の準備を、
静かに、楽しげに、始めたのであった。
「……『碧くん』ね」
***

