【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

御堂が本気を出すと、屋敷の空気まで早歩きになる。

その朝もそうだった。使用人さんたちの足音がいつもより半拍速く、電話の取り次ぎは無駄なく短く、廊下の曲がり角でぶつかりそうになった若い執事さんが「失礼しました」と言う前に、すでに次の仕事へ滑っていく。全部の中心にいるのが、たぶん御堂だ。

私は朝食を半分ほど残したところで、本人に呼ばれた。

「西の小書斎へお願いします」

「嫌な予感しかしないんですけど」

「概ね当たりです」

いつもの無表情で返され、私は観念してついていった。