【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

屋敷へ戻ってからも、その冷たさは少しずつ、確実に私の生活へ入り込んできた。

「怜央様から、本日の夕食は通常通り、屋敷でお召し上がりくださいとのことです」

「……そうですか」

「怜央様から、見舞は不要とのことです」

「はい」

「怜央様から、夜は冷えるので羽織るものを一枚増やすようにと」

「それは本人が言ってくださいよ」

思わずそう言うと、御堂は一拍置いてから答えた。

「同意します」

「同意するんですか」

「ええ。私は秘書であって伝書鳩ではありませんので」

真顔で言うから、少しだけ笑いそうになる。
でも次の瞬間には、笑う場所なんてどこにもないと気づく。

怜央が私に何かを言うとき、その間にはいつも御堂が入るようになった。
体調のことも、食事のことも、屋敷の予定も、ぜんぶ御堂経由だ。

それが、怒鳴られるよりずっとつらい。