【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

病院に着いてからの時間は、妙に長かった。
深夜を回ったころ、ようやく医師が出てきた。

「新たな出血や重篤な神経症状はありません。強いストレスによる一過性の意識消失です」

その一言で、張りつめていた肺がやっと動いた。

「ただし。記憶の結び直しが起きています。以前より個人的な記憶が戻っている可能性が高い。ただ、戻り方が急で、本人も混乱しているはずです。今夜は休ませます。面会は、明日。刺激の少ない形で」

個人的な記憶。
その言葉だけで、胸の奥がずきりと痛んだ。

明日、目を覚ました怜央は、私を見て何と言うんだろう。
妻、とはもう呼ばないかもしれない。
そのほうが正しいのに、泣きそうになる自分がいた。