【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

「怜央さん!」

怜央の膝が、がくりと折れた。

とっさに腕を伸ばしたけれど、支えきれる重さじゃない。
その体が私の肩へぶつかり、それでも止まらず、崩れ落ちる。

「怜央!」

夫人の悲鳴が響く。
御堂が一瞬で距離を詰め、会長が電話をかける気配がした。
沙羅の笑みも、その瞬間だけ完全に消えた。

でも、私には何もかも遠かった。

「怜央さん、しっかりして!ねえ、お願い……!」

目の前で、怜央の顔から血の気が消えていく。
唇がわずかに動く。
何か言おうとしたのに、音にならない。
私は必死でその体を抱きとめる。
重い。熱い。怖い。

そのまま、彼の体が私の腕の中で完全に重くなる。

床に落ちたグラスが甲高く割れる音と、怜央の名前を呼ぶ私の声だけが、広間中に痛いほど響いた。

その閉じた瞼の向こうで、何かが決定的に変わってしまった気がした。
次にこの人が目を開けたとき、もう私を妻と呼ばないかもしれない。
その予感だけが、刃みたいに胸へ突き立っていた。