【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

朝食の席には、いつもきっちり二人分の食器が並ぶ。
広すぎるダイニングは未だに落ち着かない。

「今日は午前外来、午後はカンファレンス。夜はたぶん遅い」

焼いた魚をほぐしながら、怜央が言う。

「いちいち報告しなくても大丈夫ですよ」

「夫婦なら共有するだろう?」

朝食のあと、主治医の指示で怜央は短い散歩をする。
術後のリハビリはもう終わったはずなのに、今度は健康維持と気分転換のためらしい。
超一流の心臓外科医でも、結局は歩けと寝ろと食べろを言われるんだな、と少しだけ親近感が湧く。

「付き合って」

そう言われて、私はカーディガンを羽織って庭へ出た。