【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

残された私は、家族待機用のラウンジで紙コップのコーヒーを両手で包んだ。
熱いはずなのに、指先はなかなか温まらない。

ガラス越しに見えるオペ室のランプは静かなままだ。
壁の時計の針だけが、やけに大きく進んでいく。

少し離れた席には、あの男の子のご両親が座っていた。
お母さんは何度も手を組み直し、お父さんは膝の上のスマホを開いては閉じている。
たぶん、私も似たような顔をしていたと思う。

私はまた視線をランプへ戻した。
白い扉の向こうで、今ごろ怜央は、誰かの命の真ん中に立っている。

そう思うだけで、胸が苦しくなるくらい誇らしかった。