【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

退院してきてから三週間後。
まだ長時間の執刀は止められていたけれど、仕事復帰の許可が出て、怜央は午前中だけ病院へ顔を出すようになった。

最初はカンファレンスへの参加と外来の確認だけ。
そう聞いていたのに、久遠総合病院へ着いた瞬間から、空気が違った。

「久遠先生、おはようございます」

「お身体はもう……」

「無理はなさらず」

すれ違うスタッフが次々に頭を下げる。
怜央は愛想よく笑ったりしない。ただ短く頷くだけだ。
なのに、そのたった一つの反応で相手の緊張がほどけるのがわかる。

有名だからとか、御曹司だからとか、そういう単純なものじゃない。
この人は現場で信頼を勝ち取ってきたんだと、見ているだけで伝わった。

私は家族待機用の小さなラウンジで待つつもりだったのだけれど、御堂に「見ていたほうが今後の参考になるので」と半ば強制的にカンファレンス室の後方へ案内された。
何の参考なんだろう、本当に。