【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

それからの数日、私は毎日病院へ通った。

通うたびに思い知らされる。
怜央は、基本的にはやっぱり冷たい。

看護師さんが投薬の時間を少しずらせば、「次からは予定どおりで」
御堂がスケジュール報告を長引かせれば、「三分で要点だけ」
見舞いに来た医局の先生たちが大げさに心配すれば、「死んでいないので通常運転です」

笑顔は薄い。言葉は短い。余計な慰めはない。
ああ、うん、知ってる。この感じ。
取材したときに、私が「性格は冷たい」と心のメモ帳に太字で書き込んだ、あの久遠怜央だ。

なのに、私にだけはおかしい。

「梨音、座って。立ってると疲れる」

「先に自分の心配をしてください」

「わかってる。でも、君の心配もさせてほしい」

そう言って、私のためにベッド脇の椅子を自分の近くへ引き寄せる。

「昼は食べたか?」

「食べました」

「何を」

「サンドイッチを」

「少ない。御堂」

名前を呼ばれた御堂が無音で現れる。

「はい」

「梨音の昼食、次からもっとまともなものにして」

「承知しました」

「ちょっと待ってください。私の胃袋の決定権、いつあなたに移りました?」

「妻の健康管理は夫の仕事だろ」

さらっと言う。
さらっと言わないでほしい。

しかもそれを見ていた看護師さんが、微笑ましそうに目を細めるから余計に逃げ場がない。