【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

リハビリが終わる頃には、怜央の額に薄い汗が滲んでいた。
それでも彼は、やり切った顔をしている。

「今日は、上出来です。痛みは?」

佐久間さんが尋ねると、怜央は少し考えるみたいに眉を寄せてから、私のほうを見る。

「……さっきより、軽い」

「気のせいじゃなく?」

「気のせいでもいい。軽いって思えるなら、それで」

「まあ、それもひとつの疼痛コントロールですね。心理的要因は無視できませんから」

佐久間さんがプロとしての口調でまとめると、怜央が肩をすくめた。

「ほらな。医療者も言ってる」

「医療者って言い方、雑……」

「俺も医療者だろ」

「患者でしょ、今は」

私が言うと、怜央がやられたみたいな顔をして、次に嬉しそうに笑った。