【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

契約書類にハンコを押し終わると、夫人が小さな黒いケースを差し出してきた。

「これを」

「……指輪、ですか」

中には、無駄のない細いプラチナのリングが一つ入っていた。
飾り気はないのに、上等だとひと目でわかる。

「表向きの整合性のためでもありますし……お願いの印でもあります」

私はしばらく躊躇ってから、左手の薬指にリングを通した。
少しだけ冷たくて、驚くほど重かった。
金属の重さじゃない。役目の重さだ。