【改稿版】記憶を失くした御曹司と偽りの妻

車は高い塀と重い門を抜け、久遠家の屋敷へ滑り込んだ。
正門から玄関までがもう長い。庭というより公園だし、噴水はたぶん私の家賃数年分でできている。
あまりのスケールに、現実感が逆に死ぬ。

「……すみません」

「何でしょう」

「いまから私、何になるんでしたっけ」

御堂は一拍も置かずに言った。

「怜央様の妻です」

「職務経歴書に書けない仕事ですね」

「前例がない職種であることは認めます」

認めるんだ。

玄関の扉が開くと、数人の使用人さんたちが一斉に頭を下げた。

「お帰りなさいませ、奥様」

危うくその場で踵を返すところだった。

奥様って、誰……?