思い出じゃないクロックムッシュ

 
 ──今日の天気は、雲が多めの晴れ。十月の初旬なのに、外を歩いていると雲の間から時々差し込む陽の光に暑さを感じる。

 駅から出て、陸橋でつながっているビルの自動扉をくぐる。うつむきがちに歩いていると、ふとカフェの立て看板が視界に入った。

「……クロックムッシュ?」

 それは、知っているけれど食べ慣れていないもの。いつもなら、通り過ぎるところだけど、今日は興味が湧いて食べたい気分になった。

 興味だけじゃないことは、心にくすぶる寂しさと少しの痛みが教えてくれている。私はいま、一人になることが怖いのだ。

 この店は二階にあり、ビルの広い空間の片隅にある。五階か六階分くらいぶち抜かれた空間にたくさんの木々や植物が植えられ、まるで植物園を思わせる香りと、落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 壁のない店内に足を踏み入れ、案内された席に腰をかけた。少しして、運ばれてきた水とともに、渡されたメニュー表を開く。このお店は日本茶も楽しむことが出来て、以前に友達と入ったことがある。

 ひと通りメニューを見て、やはり気になっていたランチセットのクロックムッシュを頼んだ。時間がかかると書いてあったので、バッグから小説本を取り出して読みながら待つことにする。

 十月だというのに気温はまだ高く、室内は植物のために一定の室温を保っているのか、外より涼しくて快適だった。

 本を読みながら周囲を一瞥していくと、ランチに来た客が少しずつ席を埋めていく。ゆったりと流れる時間が、今の私の心中を穏やかにしてくれた。