感情の屍

*

チリンチリン。

お店の不気味な外観とは釣り合わない、高い音が響く。

「あの...」

「なんの感情を喪くしたいんですか。」

かなりミステリアスな外見をした店主は、当たり前のようにそう尋ねてきた。

「あー、えっと」

「なんか、負の感情を取り除きたいんですけど」

店主は無表情のまま、私を案内した。

どこか遠くを見つめているような、鋭く冷たい目。

「この部屋に入る前に、注意事項が一つあります。」

「はい」

「感情を一度喪くしたら、その感情を再度味わうことは出来なくなります。」

「...分かりました」

注意事項と言っても、案外当たり前のことじゃんと思った。

だって、私はその覚悟を持って来たんだからさ。

「では、この部屋に十分間お入りください。」

入る前に一度唾を飲み込んでから、開けられたドアの向こうに足を踏み入れた。

寒気と共に、パタン、とドアの閉じる音がした。

見たことのない変な部屋。

こんなところに十分間もいるなんて、逆に怖い感情が増えそうだ。

そう思いながら、私は長い時を過ごした。