《真一side》
いつもの時間のいつもの電車。けれど今日は一分一秒でも早く到着してほしくて、ホームから線路だけを見つめていた。通勤客のざわめきやアナウンスの声も耳に入らない。
昨日、久しぶりに桐島さんに会えた。それだけではない。別れ際、また朝の電車で会いたいと告げたら、彼女は頷いてくれた。その嬉しさのあまり、昨夜は布団に入ってもなかなか眠れなかった。時計の針の進みがやけに遅く感じられたほどだ。
……夢だったのだろうか。本当に現実なんだろうか。社会人にもなって、こんなふうに電車を待つだけで胸が騒ぐなんて。我ながらどうかしていると思いつつ、桐島さん本人に会うまでは気持ちが落ち着かず、逸る心を抑えるのに必死だった。
電車が到着する。走ってはいけない、飛び込んではいけないと頭では分かっているのに、気づけば足は自然と早まっていた。胸の奥の焦りに背中を押されるようにして、車内へと飛び込む。
……そして、探していた彼女の姿を見つけた。
(……良かった、いた……)
緊張と安堵が一気に押し寄せて、思わず笑みがこぼれる。
「……おはようございます」
声が少し上ずってしまった。桐島さんも「お、おはようございます……」と返してくれて、その声を聞いた瞬間、胸のつかえがほどけていく。嬉しさのあまり、無意識に「……良かった」と小さく呟いていた。自分でも、なぜそんな言葉が漏れたのか分からなかった。
そこからは、会えなかった間に始めたゲームの話をしていた。会えた嬉しさ、話せる喜びで胸がいっぱいで、気づけば夢中で話していた。――彼女の表情が時折曇っていることにも、気づかぬまま。
別れ際、「帰りも一緒に帰れますか?」と尋ねると、仕事が忙しいと断られてしまった。少し元気がないようにも見えたが、疲れが溜まっているのだろう。無理をさせるべきではない。
「朝はご一緒できますよね?」
もう一度会えなくなるのは困る。そう思って確認すると、彼女は控えめに「……はい」と頷いてくれた。その答えに胸の奥が温かくなり、嬉しさを隠しきれずに口元が緩んでしまう。
***
そのまま会社に着くと、また小野と一緒になった。
「おす」
「おはよう」
「……どうした? なんか妙に嬉しそうじゃないか」
聞かれて「別に」と返そうとしたが、思い直す。この間、僕の不安を全部聞いてくれたのは小野だ。
「実は、桐島さんにまた会えたんだ」
「えっ? マジかよ!」
「ああ、今日からはまた一緒に通勤できるようになった」
そう伝えると、小野は心底嬉しそうに笑い、僕の肩を軽く叩いた。
「……良かったな」
思わず口元が緩む。浮かれている自覚はあるけれど、抑えられなかった。
エレベーターに乗り込む。そこには他部署の人もいたので、声をひそめながら会話を続けると、小野が急に真面目な顔をした。
「おい、浮かれるのもいいけど、あの子のこともちゃんとしろよ」
「あの子?」
誰のことか分からず首をかしげていると、小野は呆れた顔で僕のわき腹を軽く小突いた。
「総務の彼女だよ」
言われてようやく気づく。確かに僕は、彼女に対してとても失礼なことをしてしまった。改めて謝罪するべきだ。
エレベーターが着き、席へ向かいながら小野がさらに釘を刺す。
「お前は気にしてなかったかもしれないが、結構噂になってるぞ。主にお前が悪者としてな」
「え……?」
思わず固まる僕に、小野はため息をついた。
「昼休みなんか、総務フロアで普通に名前出てるらしいからな。謝りに行くにしても、覚悟していけよ」
「ああ……、わかった」
元はといえば自分が蒔いた種だ。彼女に罵倒される覚悟で、きちんと謝ろう。そう心に決めた。
いつもの時間のいつもの電車。けれど今日は一分一秒でも早く到着してほしくて、ホームから線路だけを見つめていた。通勤客のざわめきやアナウンスの声も耳に入らない。
昨日、久しぶりに桐島さんに会えた。それだけではない。別れ際、また朝の電車で会いたいと告げたら、彼女は頷いてくれた。その嬉しさのあまり、昨夜は布団に入ってもなかなか眠れなかった。時計の針の進みがやけに遅く感じられたほどだ。
……夢だったのだろうか。本当に現実なんだろうか。社会人にもなって、こんなふうに電車を待つだけで胸が騒ぐなんて。我ながらどうかしていると思いつつ、桐島さん本人に会うまでは気持ちが落ち着かず、逸る心を抑えるのに必死だった。
電車が到着する。走ってはいけない、飛び込んではいけないと頭では分かっているのに、気づけば足は自然と早まっていた。胸の奥の焦りに背中を押されるようにして、車内へと飛び込む。
……そして、探していた彼女の姿を見つけた。
(……良かった、いた……)
緊張と安堵が一気に押し寄せて、思わず笑みがこぼれる。
「……おはようございます」
声が少し上ずってしまった。桐島さんも「お、おはようございます……」と返してくれて、その声を聞いた瞬間、胸のつかえがほどけていく。嬉しさのあまり、無意識に「……良かった」と小さく呟いていた。自分でも、なぜそんな言葉が漏れたのか分からなかった。
そこからは、会えなかった間に始めたゲームの話をしていた。会えた嬉しさ、話せる喜びで胸がいっぱいで、気づけば夢中で話していた。――彼女の表情が時折曇っていることにも、気づかぬまま。
別れ際、「帰りも一緒に帰れますか?」と尋ねると、仕事が忙しいと断られてしまった。少し元気がないようにも見えたが、疲れが溜まっているのだろう。無理をさせるべきではない。
「朝はご一緒できますよね?」
もう一度会えなくなるのは困る。そう思って確認すると、彼女は控えめに「……はい」と頷いてくれた。その答えに胸の奥が温かくなり、嬉しさを隠しきれずに口元が緩んでしまう。
***
そのまま会社に着くと、また小野と一緒になった。
「おす」
「おはよう」
「……どうした? なんか妙に嬉しそうじゃないか」
聞かれて「別に」と返そうとしたが、思い直す。この間、僕の不安を全部聞いてくれたのは小野だ。
「実は、桐島さんにまた会えたんだ」
「えっ? マジかよ!」
「ああ、今日からはまた一緒に通勤できるようになった」
そう伝えると、小野は心底嬉しそうに笑い、僕の肩を軽く叩いた。
「……良かったな」
思わず口元が緩む。浮かれている自覚はあるけれど、抑えられなかった。
エレベーターに乗り込む。そこには他部署の人もいたので、声をひそめながら会話を続けると、小野が急に真面目な顔をした。
「おい、浮かれるのもいいけど、あの子のこともちゃんとしろよ」
「あの子?」
誰のことか分からず首をかしげていると、小野は呆れた顔で僕のわき腹を軽く小突いた。
「総務の彼女だよ」
言われてようやく気づく。確かに僕は、彼女に対してとても失礼なことをしてしまった。改めて謝罪するべきだ。
エレベーターが着き、席へ向かいながら小野がさらに釘を刺す。
「お前は気にしてなかったかもしれないが、結構噂になってるぞ。主にお前が悪者としてな」
「え……?」
思わず固まる僕に、小野はため息をついた。
「昼休みなんか、総務フロアで普通に名前出てるらしいからな。謝りに行くにしても、覚悟していけよ」
「ああ……、わかった」
元はといえば自分が蒔いた種だ。彼女に罵倒される覚悟で、きちんと謝ろう。そう心に決めた。


