銀色の雲の上

昼休憩もそろそろ終わる頃、ドヤドヤと校庭から生徒たちが戻ってきた。

皆、息を切らしながら楽しそうに喋っている。

このかたヘルマンに話しかけようともしてこなかったモーリッツが、珍しくヘルマンの肩に手を置いて一緒に教室に入ってきた。

「ヘルマン、お前、おっかしかったな。ま、お前のおかげでチームが勝ったから結果オーライだ」

モーリッツは上機嫌な声でヘルマンに話しかけている。
モーリッツの話に耳を澄ませてみると、どうやらヘルマンは守備で一度しくじった直後、チームの勝利に貢献したらしい。

「アレクサンダーに教えてもらった通りにやったら、うまくいったんだ」

級友たちに囲まれたヘルマンは息を弾ませながら、照れくさそうにそんなことを言っている。

「だろ? 前より動きが良くなった」

アレクサンダーは当然のように答えている。

友人関係というのは“類は友を呼ぶ”のか、似た者同士でくっつきやすいものだ。
入学当初から同じ年齢の子どもたちが一つの教室に押し込められ、場所を同じくしながら過ごす。
そのうちに、いつのまにか個性を周囲からラベリングされてしまう。

それらはほとんどが無意識的に行われる。
一度ラベルが貼られてしまうと、卒業まで貼りなおすのは難しい。
親友のようにお互いのことを深く知る機会があるならまだしも、大抵はそれぞれに大小様ざまなレッテルが張られたまま、覆されることなど無いのが現実だ。
いつの間にか自身でさえも、そのレッテルの瓶詰めに形を合わせていることさえある。

そして、教室内での人間関係は、級を重ねるごとに凝り固まっていく。

ヘルマンは気の悪い奴ではないが、これまで幾度となく要領の悪さやオドオドした態度が露呈して、教室の賑やかしな生徒たちから爪弾きにされてきた。

ヘルマン自身も活発な生徒たちには相手にされないことを悟っているのか、距離を置くようにして過ごしてきた。

それがたった今、アレクサンダーのほんの一指(ひとさ)しで風穴が通されたのだ。

ミハエルは、このとき初めて、人の好き嫌いがはっきりしたモーリッツがヘルマンに機嫌良く話しかけるのを見た。

モーリッツは活発で教室でも目立つ生徒だ。
その一面、気に入らない相手とは目も合わせようとしないような、冷たいところがある。
ヘルマンが自力で賑やかな級友たちの輪に入ることは、残酷ではあるが不可能だったろう。

その点、アレクサンダーが人を輪に引っ張りこむ才能は見事と言うしかない。

モーリッツたちもアレクサンダーだからこそ、ヘルマンが輪に混じることを許したのだ。

アレクサンダーは強引ではあるが、周囲の者たちを納得させる説得力を持ち合わせていた。
ヘルマンもずっとこのような状況に憧れていたのだろう、喜びを隠しきれない顔をしているであろうことが、背中越しに伝わってきた。

いつも教室の隅で息をひそめるようにして過ごしているヘルマンに心の底で同情していたミハエルは、彼に応援(エール)を送りたい気持ちと、鼻白む気持ちの両方が、同時に湧き起こった。

この複雑な感情が何を意味するのか苦々しく思いながら、ふいにミハエルの中に疑問が湧く。

(アレクサンダーは他の生徒たちに対しては、踏み込み過ぎて嫌煙されるようなことはないのだろうか)

この頃ではアレクサンダーなりに気を遣ってか、ミハエルを皆の輪に誘うようなことはなくなっていた。
ミハエルとしてはその方が助かるが、代わりに小屋までついて来るようになって辟易としている。

(僕にだけ距離感がおかしい気がするのは、気のせいか?)

ミハエルは腑に落ちない。はたして同じ行動を、他の生徒たちにも行うものなのだろうか。

面倒見の良さとお節介は表裏一体である。

他の生徒にはアレクサンダーなりに踏み込まないようにしているのか。

それとも自身の身の上からアレクサンダーを強引過ぎるように感じているのか。

アレクサンダー以外に友人(・・)というものがいないため、ミハエルは確認しようもなかった。