銀色の雲の上

小屋に着くと、ミハエルは手早くランプに灯りをつけ、それから暖炉に火をくべた。

この日も裏門のところで出し抜こうとしたが失敗した。
どうやらアレクサンダーはアレクサンダーで、閉め出されないよう目を光らせていたようだ。

ミハエルはため息をついた。

仕方がないので、一旦アレクサンダーを小屋までついて来させて納得させ、早々に帰ってもらうことにした。

全くもって不本意である。

つっけんどんにしても響かず、力で押し返すことも敵わないのであれば、こうするしかない。
部屋が暖まってきたところで、アレクサンダーは外套を脱いでいる。

それから、勉強を教えると申し出てきた。

「どういうつもりで」

ミハエルが(いぶか)しんで問うてみれば、ミハエルが休んでいた期間に授業で進んだ教科の範囲を講じてくれるのだという。

アレクサンダーは学業も抜群だ。

第八学年(プリーマ)に進級して最初の試験で、アレクサンダーは、ミハエルがこれまで死守してきた主席の座を、いとも簡単にかっさらっていった。
このギムナジウムよりもずば抜けて学識の高いところに通っていただけのことはある。

ミハエルは、これには酷い屈辱感を味わった。

しかも、その相手が目の前で勉強を講じてやろうと言うのである。
その余裕が、ますます憎たらしい。

しかし、アレクサンダーはあくまで親身らしい。こちらが風邪で勉学に遅れて困っているであろうことを本気で案じてくれているようだ。

強引ではあるが、やはり面倒見は良いというべきか。

教室では最近、難しい課題が出るとアレクサンダーに指南してもらう級友たちが増えてきていた。
この学業成績の卓越した編入生は、それに対して嫌な顔ひとつせず対応してやっている。

ギムナジウムの授業は高度でついていくのが大変だ。

風邪が治り登校を再開した日から、休憩時間になるたびに教師のもとに頻繁に通っている。
さらには最近、眠る時間を削って勉強に励んでいる。
しかし、如何せん教科数が多い。
ミハエルもこれまで一貫して主席の座を維持してきたとはいえ、一週間分を取り戻すとなるとかなり苦戦していた。

教師陣も気にはかけてくれているが、授業はミハエルの事情などおかまいなしに進んでいく。
これらに加え、休んでいる間に出された課題も加わるのだ。

暗唱、書き取り、数式、それに課外読書。

昨日も、夜も遅くまでかかりこなしていたが、まだ消化しきれていない。
量が多いだけに骨が折れる。

今すぐにでもアレクサンダーを小屋から追い出したいところだが、こと勉強に関しては助かるかもしれない。
たしかに彼が貸してくれたノートは、分かりやすかった。

(どうせ、すぐに帰りそうにもないし………)

ミハエルは、アレクサンダーの方をちらと見やり、その厚意を受け取ることにした。

「俺は、数学は得意だぜ」

アレクサンダーは、自らの申し出が受け入れられたことに機嫌を良くしながら、そんなことを言っている。

課外読書の要約も聞かせてくれるという。

勝手にテーブルのそばの椅子に腰をおろして鞄から教科書を取り出しはじめたアレクサンダーを見つめながら、ミハエルは密かに暗澹たる気持ちになった。

(正直助かる、けど……)

アレクサンダーにこの場所に入り浸る口実を与えてしまっている気がする。

(あんまり馴れ合わない方がいいのに………)

ミハエルはテーブルの上に教材とノートを広げた。

なんだかんだ、アレクサンダーのペースに上手く乗せられている。