銀色の雲の上

「お前、目障りなんだよ」

暗がりの中でゲオルグに胸ぐらをつかまれ、ミハエルは恐怖で打ち震えていた。

「ご、ごめんなさい……」

無意識に謝罪の言葉がついて出る。

目の前でゲオルグは眼鏡の奥で眼を冷たく光らせている。

ミハエルは、ドンッと後ろの壁に体を押しつけられた。

「………っ」

強く背中が打ちつけられ、あまりの痛みで声にならない。
ミハエルはドサッとその場に崩れ落ちた。

ゲオルグはかがんで、もう一度ぐいっとミハエルの胸ぐらをつかむ。
ゲオルグは口元に冷たい薄ら笑いを浮かべている。
ミハエルは恐怖のあまり震えることしかできない。

ゲオルグは覆いかぶさると、シャツの上からミハエルの左の脇腹をぐいっと力の限り()じり上げた。

「ぅあ……ぐ……うっ」

がらんとした暗い空間にミハエルの呻き声が響く。引きちぎられるほどの痛みに、体が反射的に前のめりになる。

ゲオルグがやっと手を緩めてくれたかと思うと、今度はグイッと顎を掴まれた。

向き合ったゲオルグの顔に、銀縁のメガネが鋭く光っている。

「お前のせいだ」

ミハエルを見つめるゲオルグは、額に青筋を立てている。

「ご…めんな……さい」

冷や汗が噴き出る。ミハエルは苦痛で顔を歪めながらも謝罪の言葉を口にしていた。

ゲオルグの手が緩められ、どさりとミハエルはその場にうずくまる。

「絶対にこのことは誰にも言うんじゃねーぞ」

「……は…はい…」

暗がりの中、窓からは、月明かりの冷たい銀色の光が鋭く差し込んでいた。

恐る恐るゲオルグを見上げる。

そこにはまるで地獄に堕ちた者を見て楽しむ悪魔の顔が浮かび上がっていた。

ミハエルは愕然とする。

ゲオルグは満足したのか、そのまま屋敷の奥へと戻っていった。

しばらくの間、ミハエルは冷たい床の上で打ちひしがれていた。
ゲオルグの指が食い込んだ箇所が燃えるように熱い。
氷のように冷たい空気に包まれ、虚ろな眼で茫然とその場に横たわっていた。