朝、目が覚めるとまず心臓の音を確認する。
胸に手を当てると、まだ生きてると他人事のようにおもってしまう。
小さい頃からルーティン化して慣れた薬を飲む。
髪を解いて、制服を着て、お母さんが作ってくれたご飯を食べる。
何の変化もない、何の面白げもない。
自分の人生に向き合うのも疲れた。そう、心臓が言ってるように思えた。いや、心臓のせいにしたいだけなのかもしれないけれど。
医師から告げられた「あと一年」という数字は私にとって絶望ではなく、ただの予定表のようなものだった。
「花音ちゃん、おはよう!」
クラスメイトの私に向けた挨拶。
『おはよう』
返事をするだけ。
それ以上話すことはない、話さないというように視線を机の上の教科書に向ける。
クラスメイトたちの賑やかな声が、厚いガラスの向こう側にあるような遠い出来事に感じられた。
これでいい。
誰の記憶にも残らず、誰にも掻き回されない。
私はこの教室の造花であって、枯れることも無ければ、香りを残すこともない。ただの背景。
昼休み。教室の空気は一気に熱を帯びる。
その中心にはいつも彼がいる。
旭日 春くん。
彼は私とは対極の場所にいる人だ。
窓から差し込む陽光を背負って笑う彼は、直視したら目が潰れてしまいそうになるくらい眩しい。
___太陽みたいに。
そしてその春くんの隣にいるのが幼馴染のふたり。
長谷川翔くん。星野七瀬さん。
幼馴染だという3人の姿はそこだけスポットライトが当たってるように華やかだ。
クラスの人気者で、可愛くて、かっこよくて。
手を伸ばしても伸ばしても届ききれない存在。
「春、次の授業なんだっけ?」
少し茶髪に染めた髪、ネクタイはいつも緩め、シャツの第一ボタンは閉めない翔くんが春くんに問いかける。
「え、移動教室やん、忘れてたん?」
「もーー、ばかだなあ」
鈴の鳴るような声で笑うのは七瀬さん。
いつもおしゃれでスカートは短く、クラスの女子からも男子からも人気。
告白されてるところを何度か見たことがあるが断っているみたいだ。
まあ、春くんや翔くんと一緒にいたら他の人はどうしても霞んで見えてしまう、なんて。不覚にも思ってしまう。
私は、教科書を読むふりをしてその光を盗み見る。
彼らに近づきたいわけじゃない。
話したいわけじゃない。
ただ自分には永遠にやってこないだろう、「眩しい未来」を遠くから見ているので充分だった。
テレビの前にいる芸能人のような、そんな感覚だ。
羨ましいなんて、そう思う方が失礼だと思ってしまうくらいなのに。
「春、翔、早く購買行かないと間に合わないよ!」
「あ、ほら、春早くしろ!」
「待てって!(笑)」
そんな声にもうご飯を食べる時間だと気づく。
私は机の横にかけてあるお弁当袋と水筒を持ち、机を並べて楽しんでるクラスメイトたちを横目に通り過ぎる。
屋上の隅。一人ぼっち。
お弁当箱を開けると、色とりどりのおかずたち。
お母さんが毎日心を込めて準備してくれてるものだ。
ちゃんと、わかってる。ありがたいことくらい。
__でも、
こんなに頑張って作ってくれても私の心臓は変わらない。
どうせ止まるのに。
箸を持つ手が止まる。
食欲が無いわけじゃない。意味がわからなくなるだけだ。
生きるために食べているのか、死ぬまでの時間を埋めるために食べているのか。
真っ直ぐ前を見ると楽しそうにグラウンドでサッカーをしてる生徒たち。
名前を呼び合って思いっきり走って。
眩しい、羨ましい。
ずるい。
丈夫に生まれてきたら私は今あの場所にいた?
いくら考えたって変わらないのはわかってるのに。
「…あと、300日くらいかな」
軽い。あまりにも軽すぎる。
でももう無駄だから。
誰にも聞かれてない、誰も聞いてくれない。
そんな独り言。
綺麗な青い空に吸い込まれていった。
胸に手を当てると、まだ生きてると他人事のようにおもってしまう。
小さい頃からルーティン化して慣れた薬を飲む。
髪を解いて、制服を着て、お母さんが作ってくれたご飯を食べる。
何の変化もない、何の面白げもない。
自分の人生に向き合うのも疲れた。そう、心臓が言ってるように思えた。いや、心臓のせいにしたいだけなのかもしれないけれど。
医師から告げられた「あと一年」という数字は私にとって絶望ではなく、ただの予定表のようなものだった。
「花音ちゃん、おはよう!」
クラスメイトの私に向けた挨拶。
『おはよう』
返事をするだけ。
それ以上話すことはない、話さないというように視線を机の上の教科書に向ける。
クラスメイトたちの賑やかな声が、厚いガラスの向こう側にあるような遠い出来事に感じられた。
これでいい。
誰の記憶にも残らず、誰にも掻き回されない。
私はこの教室の造花であって、枯れることも無ければ、香りを残すこともない。ただの背景。
昼休み。教室の空気は一気に熱を帯びる。
その中心にはいつも彼がいる。
旭日 春くん。
彼は私とは対極の場所にいる人だ。
窓から差し込む陽光を背負って笑う彼は、直視したら目が潰れてしまいそうになるくらい眩しい。
___太陽みたいに。
そしてその春くんの隣にいるのが幼馴染のふたり。
長谷川翔くん。星野七瀬さん。
幼馴染だという3人の姿はそこだけスポットライトが当たってるように華やかだ。
クラスの人気者で、可愛くて、かっこよくて。
手を伸ばしても伸ばしても届ききれない存在。
「春、次の授業なんだっけ?」
少し茶髪に染めた髪、ネクタイはいつも緩め、シャツの第一ボタンは閉めない翔くんが春くんに問いかける。
「え、移動教室やん、忘れてたん?」
「もーー、ばかだなあ」
鈴の鳴るような声で笑うのは七瀬さん。
いつもおしゃれでスカートは短く、クラスの女子からも男子からも人気。
告白されてるところを何度か見たことがあるが断っているみたいだ。
まあ、春くんや翔くんと一緒にいたら他の人はどうしても霞んで見えてしまう、なんて。不覚にも思ってしまう。
私は、教科書を読むふりをしてその光を盗み見る。
彼らに近づきたいわけじゃない。
話したいわけじゃない。
ただ自分には永遠にやってこないだろう、「眩しい未来」を遠くから見ているので充分だった。
テレビの前にいる芸能人のような、そんな感覚だ。
羨ましいなんて、そう思う方が失礼だと思ってしまうくらいなのに。
「春、翔、早く購買行かないと間に合わないよ!」
「あ、ほら、春早くしろ!」
「待てって!(笑)」
そんな声にもうご飯を食べる時間だと気づく。
私は机の横にかけてあるお弁当袋と水筒を持ち、机を並べて楽しんでるクラスメイトたちを横目に通り過ぎる。
屋上の隅。一人ぼっち。
お弁当箱を開けると、色とりどりのおかずたち。
お母さんが毎日心を込めて準備してくれてるものだ。
ちゃんと、わかってる。ありがたいことくらい。
__でも、
こんなに頑張って作ってくれても私の心臓は変わらない。
どうせ止まるのに。
箸を持つ手が止まる。
食欲が無いわけじゃない。意味がわからなくなるだけだ。
生きるために食べているのか、死ぬまでの時間を埋めるために食べているのか。
真っ直ぐ前を見ると楽しそうにグラウンドでサッカーをしてる生徒たち。
名前を呼び合って思いっきり走って。
眩しい、羨ましい。
ずるい。
丈夫に生まれてきたら私は今あの場所にいた?
いくら考えたって変わらないのはわかってるのに。
「…あと、300日くらいかな」
軽い。あまりにも軽すぎる。
でももう無駄だから。
誰にも聞かれてない、誰も聞いてくれない。
そんな独り言。
綺麗な青い空に吸い込まれていった。
