素敵な笑顔を咲かせる君と

「じゃあなんで僕の名前を知ってるんですか」


 腕を組んで、なんか偉そうな態度でそう聞かれた。
 でも不思議とイラつかないのは何故だろう。

 この子がそういう性格だということを理解してしまったからだろうか。
 こんな生意気な性格を理解したくもないけど。


「文化祭でコーヒーの絵を出してなかった? あの絵、すっごい印象的だったんだよね。
 周りに飾ってあった絵は、神社とかお花とかが多かったのに。数ある絵のモデルの中で、どうしてコーヒーを選んだんだろうって印象に残ってさ」


 そう言うと、一ノ瀬くんは納得した表情を見せた。
 上を向いて軽く頷いている。


「あの喫茶店のコーヒー美味いから」

「わかるー! 私もあそこのコーヒーとケーキ大好き!」


 コーヒーを描いた理由は安直だった。
 思っていたよりもまっすぐな性格なのかもしれない。


「……僕がバイトしてること、言うんですか」


 少し不安そうな顔で、静かに聞かれた。この高校はバイト禁止だ。
 先生にバレたら目をつけられること間違いなし。不安になるのも無理はない。


「別に言わないよ。言ったところで私に徳なんてないし。それに、君に事情があるかもしれないし」


 後ろで手を組んで小さな声で言った。ここは人通りが少ない。でも、構造上響きやすい。
 この内緒話も誰かの耳に入ってしまうかもしれない。


「別に家が貧乏だとか、施設育ちだとかそんなんじゃないです。両親は健在だし、普通に生活してる。
 ただ親には、中学生の頃からずっとお金を稼ぐ大変さを知りなさいって言われてたってこともあって……。
 別に稼いだ金は自分で使っていいことになってます。漫画買うでも、ゲーム買うでも何も言わないって」

「なるほどねぇ」


 母親が病気で入院しているとか、幼い兄弟がいるとかを想像していたけれど、別にそんなことはないらしい。


「さっきも言った通り、誰にも言うつもりはないよ。知らないふりをする」

「助かります」


 一ノ瀬くんはさっきまで生意気な態度をとっていたとは思えないほど、静かになっていた。まぁ私が先輩だってわかったからかもしれないけど。


「でもさ、一つお願いしてもいいかな。何曜日にシフト入れてんの?」


 右手の人差し指を顎に当てて、あざとく首を傾げる。
 右だけ青い目で、一ノ瀬くんを見つめる。


「……金曜日と日曜日。部活がオフだから」

「ふーん、なるほどね」


 一ノ瀬くんは嫌な予感がするとでも言わんばかりに顔を顰めていた。
 多分、その嫌な予感は当たっていると思う。


「私、日曜日にまた行くね。コーヒー奢って?」

「クソッタレが」

「口悪っ。バラしちゃうよ?」

「チッ」

「舌打ちはお行儀が悪いってば……」


 この子のイライラポイントに触れてしまっただろうか。でも、別に一杯のコーヒーを奢るくらい良いと思う。

 それに、この会話だけで終わってしまうのは少し寂しかった。
 少しくらい繋がりがあってもいいじゃないか。