素敵な笑顔を咲かせる君と

 約束の日曜日。その日は久しぶりに暖かい日だった。
 だから、上着は薄手のコートで良かった。

 少しだけふわふわの白い長袖の上に、黒色のワンピースを着る。
 私はこのスタイルが好き。


「こんにちは〜!」


 いつも通り笑顔で挨拶をする。

 その日はお休みってこともあるのか、お客さんが何人かいた。


「舞華ちゃん、いらっしゃい。好きなところに座ってね」


 そう言われて辺りを見渡す。
 カウンターには何人か座っているから、少し座りづらい。

 だから、端っこにある二人がけのテーブル席に向かった。


 少し目線を右にずらすと、おじさんと同じエプロンをかけている同い年くらいの男の子がいる。

 おじさんと何か話しているようだ。


 バレないように目線で追いかけていると、気づいてしまった。
 あの子は、アトリエで絵を描いていた男の子。

 私が見惚れていた、美術部員の一年生。


「ご注文は?」

「スーッ・・・・・・」


 男の子に声をかけられて、静かに息を吸う。
 静かではなかったかもしれないけど。


「・・・・・・・・・・・・」


 男の子は黙って私を見ていた。
 というよりも、私の目を見ていた。


(あぁ、この右目か・・・・・・)


 珍しくて驚いているのだろう。
 厨二病だと笑うだろうか。それとも、気付かぬふりをするだろうか。


「きれい・・・・・・」


 予想は大きく外れた。
 こんな静かな店内なら、どんなに静かな声でも吐息混じりに耳に入る。

 私の右目をじっと見つめて、そんなことを言われたのは初めてだ。


「・・・・・・気まぐれケーキとコーヒー」


 私のその声に肩をハッと震わせ、「かしこまりました」とだけ言って、おじさんのところに注文を言いに行った。


(一ノ瀬・・・・・・)


 あの子の左胸についている名札には、確かにそう書いてあった。


「お待たせしました」


 しばらくして、ケーキとコーヒーが置かれた。
 なんと、今日は私の好物のショートケーキだった。


「おじさぁん! 今日はショートケーキなんだねぇ!」

「ん? そうだよ。でも今日はお客さんがいるから静かにしようね」

「あっはい」


 私が大きな声を出したせいで、数人の他のお客さんが私を一気に見た。少し恥ずかしい。

 私のテーブルにケーキとコーヒーを置いた一ノ瀬くんも、目を大きく見開いて固まっている。
 そんなに驚いたんだろうか。


「・・・・・・そんなガン見されると食べづらいんですけど。別にあげないよ?」

「・・・・・・いらないです」


 それだけ言うと、一ノ瀬くんはキッチンに戻って、洗われたお皿を棚にしまう作業に戻った。


「うまっ」


 声の大きさはおじさんに注意されたので、なるべく小さな声に抑えた。

 それでもやっぱり美味しいものを食べると声が勝手に出てしまう。


 独り言は虚しいとか言う人がいるけど、別にいいじゃないか。
 感情の整理がつくし、記憶力がアップするらしいし。


(私もここでバイトしたいなぁ・・・・・・。でも、私の高校バイト禁止・・・・・・ん?)


 私の高校はバイト禁止だ。先生にバレたら停学させられるらしい。
 まぁ所詮噂だから、反省文三枚くらいとかかもしれないけれど。


 でも、あの子はバイトしている。

 先生に許可を取っているのかもしれないけれど、よほどのことがなければ許可なんてそうそう降りない。


(すっごい度胸・・・・・・)


 ケーキを食べながらボケーっとそう思った。


「おじさーん、ごちそうさまでしたー」

「はい、お粗末さまでした」


 ケーキとコーヒーを全部食べ終わって、お会計をする。

 一ノ瀬くんはもう出て行ったお客さんが座っていたテーブルを拭いている。


「どうだった? バイトくん」


 お会計の時に小さい声でそう聞かれた。


「うーん、笑顔とかはないけど普通に接客はいいんじゃないかな。
 っていうか、このお店バイト取ってたんだね。知らなかった」

「うん、こういうお休みの日はお客さんが少し多いからね。バイト一人雇うくらいは余裕あるよ」


 私もここでバイトしたい。

 先生にバレるのが怖いからしないけど。


「また来てね」

「はーい」


 今日はお客さんがいるから、小さめの声で返事をして手を振ってお店を出た。