素敵な笑顔を咲かせる君と

「一ノ瀬、期限はもうすぐだよ。なるだけ早くね」

「分かってますよ」


 彼のキャンバスを覗き込むと、
 前回見た時の絵とはまた少し違うものだった。


「あれっ? 変えたの?」

「そう、なんか急にゼロから始めてね」


 高柳くんも不思議に思っていたらしい。


 前まで書いていた、
 水に浮かんでる女の人も綺麗だと思っているが、納得がいかなかったんだろうか。


「……ここ、花を浮かべるつもりです。花咲先輩がアドバイスくれたでしょ」


 一ノ瀬くんはグレーの絵の具のついた筆で、大体の場所をさした。
 私の言葉一つで、期限をギリギリにしてまでキャンバスを新しくしたのだ。


「えっ、期限があるんでしょ? 間に合うの?」


 アドバイスを聞いてくれたのは嬉しいが、自分の身を削ることにならないだろうか。
 それが心配だ。


「期限くらい守りますよ。このくらいなら問題ないし」


 そう言って、一ノ瀬くんは完全に集中モードに入ってしまった。


「ねぇ舞華ちゃん、気分転換って言ったでしょ?」

「うん、言ったね」


 高柳くんが、赤色の絵の具を塗りながら話しかけてきた。


「俺、バイクの免許持ってんだよね。
 今度俺の好きな場所に連れてったげよっか。
 めっちゃ綺麗な場所知ってるから」

「へぇ〜、どこ?」


「それは内緒。土曜は部活が午前にあるし、日曜日に行かない?」

「日曜か……」


 最近は、日曜日にあの喫茶店で一ノ瀬くんと会うのが日課だ。
 別に約束している訳ではない。

 バイトしていることを黙っている代わりにコーヒーを奢ってくれる、というだけで。

 毎週日曜日に必ず行く約束を取り付けているわけではない。


「なにか予定ある?」

「ん〜、大丈夫だよ。習い事もないし」

「わかった。高校の最寄り駅集合でいい?」

「うん、わかった」


 そんな会話をしていた時、
 一ノ瀬くんの筆からミシッという音が聞こえた気がした。