素敵な笑顔を咲かせる君と

「はっ……あっは……。あっはは……」


 もう笑うしかなかった。
 一体いつから気づいていたのだろう。

 絵にしか興味がありませんみたいな顔をしているくせに。


「その笑顔。僕はそっちの方がいいと思いますよ」


 そう言う一ノ瀬くんは、かすかに微笑んでいた。


「いや、っはは……。君も少しは笑ったほうがいいよ……?」

「笑う要素がないのに笑って何が楽しいんですか」


 さっぱりしている回答が一ノ瀬くんらしい。
 笑う要素がなければ笑わない。

 なんて一ノ瀬くんらしい性格。


「どうして? 笑うと幸せホルモンが出るって言うし、なにより……」


 私は三歩前に出て、一ノ瀬くんに近づいた。

 少し驚いた顔を見せたが、すぐに無表情に戻って首を傾げた。


 彼の傾いた顔を真似するように、私も同じ角度に首を曲げる。

 と同時に、彼の鼻に冷たい指先をつけた。


「こんなにかっこいいのに。笑った方がずっといいじゃない」


 驚いてフリーズしていたのか、二秒ほど固まっていた。

 そして我に返ったように私から勢いよく遠ざかる。


「いきなり冷たいですね・・・・・・。なにすんですか」

「私の寒さのお裾分け」

「いらない」

「あっははは・・・・・・!」


 そう笑うと、彼は優しく微笑んで
 少し暖かい手で私の頬を軽くつまんだ。


「そう、それ」


 それだけ言って、彼は自宅があるであろう方向に歩いていった。


(え、なに今の)


 驚きすぎて後退りしていると壁に頭をぶつけてしまった。
 左側頭部が痛い。

 でもそれ以上に、今だけはなんでも頑張れそうな気がする。


 褒められるためだけにやっていた勉強も、
 お酒に溺れる父親に怒鳴られるのも、
 母親の無関心にも。


 今だけは全部耐えられる気がする。
 マジでなに今の。