素敵な笑顔を咲かせる君と

 こういう時に行くのは、たいてい行きつけの喫茶店。
 普段はケーキとかしか食べないけれど、今日は特別。


「おじさーん!」

「あぁ、舞華ちゃん。いらっしゃい。
 珍しいね、月曜日に来るなんて」

「うん! お小遣いもらったの!」


 お小遣いなんて可愛らしいものだったら、
 どれだけ嬉しかっただろう。

 私の命を何とか繋がせてくれる綱。
 なんて滑稽な一万円。


「今日のケーキはなんだと思う?」

「今日はケーキ食べない! 二日連続食べたら太っちゃうからね」


 これは本音。
 おじさんのケーキなら毎日でも食べたいが、特に運動をしていないと太ってしまう。


「今日はハヤシライス食べたい!」

「分かった。ちょっと待っていてね」


 こんな人が父親だったらどれだけ幸せだろう。

 親に話しかけられることが当たり前な家庭に生まれていたら、どんな生活をするんだろう。


「ねぇおじさん、普通って何?」

「哲学?」


 平たいお皿にお米を乗せながら、滅多に見ない驚いた顔を浮かべた。


「普通、ねぇ……」


 お鍋をかき混ぜながら考えている。

 こんなたった一人の高校生の女の子のために頭を捻ってくれるおじさんに、
 どうしても父親を求めてしまう。


「おじさんはさ、そういう『普通』って言葉が不思議だな。
 せめて僕は、『世間一般的』って言うかな」


 私はその『世間一般的』が分からないのだが。
 一般的な家庭とはなんだろう。


 お弁当を作ってくれる母親?
 お酒を少しだけ飲みながら子供の話を聞いてくれる父親?


(どれも幻想的な都合のいい夢よね……)


 十七年生きてきて、とっくに諦めたと思ったのに。
 なんて、どんな言葉を並べたところで言い訳だ。


「舞華ちゃんの考える『普通』はどんなの?」


 おじさんはハヤシライスをカウンターに乗せながら、穏やかな優しい笑顔を浮かべた。


「私は……テストでいい点を取るために頑張って勉強をすること、かな」


 決して嘘ではない。私が頑張って勉強していることは事実だ。
 両親がそんなことには興味がないだけで。


「そうだね、高校生は勉学に励んでこそ高校生だからね」


 キッチンを布巾で拭きながら、おじさんは笑顔でそう言った。
 一体誰が『普通』なんて言葉を生み出したのだろう。


「いただきまーす!」


 作り慣れてしまった笑顔を浮かべて、元気よく手を合わせる。
 スプーンを手に取って一口食べる。


「んっま! おじさん、ケーキもハヤシライスも美味しいねぇ!」

「ありがとう、落ち着いて食べてね」


 嗚呼。

 食べることでしか幸福を感じられないのは、なんて虚しいことだろう。