素敵な笑顔を咲かせる君と

 家に帰ると、嗅ぎ慣れてしまった強い香水の香りが鼻を突く。
 外から帰ると毎回鼻がもげそうになる。


「ただいまー」


 一応声を出しても、返事なんて返ってこない。

 笑ってしまう。
 未だそんなものを望んでいる自分が滑稽だ。


「舞華、帰ってきたの。じゃあこのお金でなんか夜ご飯食べておいて」


 そう言って母親は一万円札をテーブルに置いた。

 普通は二千円とかだと思う。
 高くても五千円とかそこらだろう。


 でもこの母親は、普通の金銭感覚がわからないのだ。

 会社の名前は忘れたが、日本でかなり大きな香水の会社の女社長。
 そのおかげで家は裕福で、生活には少しの苦労もない。


「ねぇ、ママ」

「何」


 愛なんて微塵も感じない冷たい声。
 私に目もくれない冷たい顔。

 小学校の授業参観だって一回も来てくれなかった。


「……小テスト、返ってきたんだ。また、満点で……」

「そう、よかったね」


 母親はコートを着て私に一瞥もせず家を出た。


「……今更何を求めてるんだか」


 無駄に広いこの家で独り言をこぼしても、聞く人なんて誰もいない。

 その時、二階から声が聞こえた。父親の声だ。

 言葉にもならない声を聞いて、
 私は急いでテーブルに置かれた一万円札を握って外に出る。


 この家では音に敏感にならなくてはならない。

 あの父親の視界に入ってしまえば、無駄に広くて綺麗な家が荒らされてしまう。


 私が生まれてからこの家は変わってしまったらしい。

 オッドアイというイレギュラーな存在の私が生まれたことで、
 父親は酒に溺れて脳がほとんど死んでいる。

 母親は先ほどの通りだ。


 お酒をたくさん買っても、生活には何の支障もない。


 いっそのこと貧乏だったら、と考える。

 お金がなければ生活できないし、今よりもっと酷いことになるのは目に見えているけれど。


「戯言か……」


 静かにドアを閉めて、足音を立てずに当て場もなく歩き出した。