素敵な笑顔を咲かせる君と

 美術部でもないのに、アトリエに行くのがもう日課になってしまった。


「冬なんて滅びればいいと思う。寒すぎる」

「舞華ちゃんは本当に寒がりなんだね」


 高柳くんもそこそこ寒いとは思っているらしい。
 膝に毛布をかけて下半身を温めている。


 私はコートを着ている上にマフラーを巻いている。
 流石にそこまで防寒対策をしている人はいないので、ちょっと浮いている。

 そもそも美術部員じゃないし。


「一ノ瀬くんは寒くないの〜?」


 そう呼びかけても一ノ瀬くんは、黙々とスケッチブックに顔を向けていた。

 よほど集中しているらしい。


「一ノ瀬、集中したら何も聞こえなくなるタイプだからね。あと一時間はあのままだよ」

「へぇ〜」


 高柳くんは絵を描きながら話せるタイプだ。
 彼と話す内容なんてものはあまりないけど。


「美術展に提出する絵はどうするのかな。ねぇ高林くん」

「俺、高柳なんだけど。何回言わせんの」

「ごめんね、人の名前覚えるのが苦手なの」

「覚えようとしてないだけでしょ」

「なんで分かったの?」

「こうも開き直られると傷つくよ〜?」


 興味のないことを覚えるのは苦痛だ。

 好きなこと、得意なものを頭に入れるのは別に苦しくないけれど、
 どうでもいいことは本当にどうでもいい。


「なんで一ノ瀬は間違えないの?」

「なんでって……もう覚えちゃってるし」

「変なの」


 どうやら高柳くんはモテるらしい。

 遠くの方に座っている女子たちがチラチラとこっちを見ている。
 自分に興味を示さない私が珍しいのかもしれない。


「今気づいたけど、モテモテだね。彼女の一人や二人くらいいるんじゃない?」

「彼女が二人もいたら大問題だよ」


 確かに。浮気になってしまう。

 せっかくイケメンなのに、高柳くんがひとでなしのクズになってしまう。


「高柳くんがクズ柳くんになっちゃうね」

「誰が上手いことを言えと」


 高柳くんとゆったり話していると、後ろの方から聞きなれない足音が聞こえた。
 他の生徒の上履きとも違う音。


「あ、角田先生。こんにちは」


 角田先生、という高柳くんの言葉に体が強張る。
 別にその人が怖いというわけではない。単に面倒くさいのだ。


「花咲、なんでお前がここにいんだよ」


 角田達則。数学の先生。

 私の右の青い目をカラコンだと思って、いつも怒鳴ってくる天敵。


「お友達がここにいるんですよ〜」


 嫌な人に見つかってしまった。
 なんで数学の先生が美術部の顧問になってんだろ。


「カラコンを外せって言ってるだろ」

「カラコンじゃないって言ってるじゃないですか」


 この学校には堅物しかいないのだろうか。
 昭和脳は新しい知識が入ることを拒む。

 別に全員がそうだって言ってるわけじゃないが。


「ここに来るなら美術部の入部届持ってこい。今二年生の終わりだけどな」

「私画力ないよ?」

「じゃあさっさと帰れ」

「はーい、先生さようなら〜!」


 作りたくもない笑顔を浮かべて、笑いかけたくもない相手に明るい声をかける。


「じゃあね、舞華ちゃん」


 高柳くんにそう言われたので、バッグを肩にかけて手を振った。
 一ノ瀬くんにも手を振っておいた。