一ノ瀬くんの奇行を不思議に思っていると、一ノ瀬くんが奥の部屋から出てきた。
スケッチブックと鉛筆と消しゴムを持っている。
「何か絵を描くの? 描きたいのが見つかった?」
私はたんぽぽをリクエストした。
別にたんぽぽでなくても構わない。
私の、そんなリクエストがあったな、くらいの認識でいい。
そう思いながら紅茶を口にした。ちょっと熱い。
「一ノ瀬くん、どうかしたの?」
おじさんがそう声をかけても、
一ノ瀬くんは「気にしないでください」としか言わなかった。
椅子に座って、足を組んで膝の上にスケッチブックを置いて鉛筆を走らせ始めた。
「何を描いてるの?」
紅茶を冷ましている間にクッキーを一枚手に取って口に運ぶ。
私の言葉に答えるように、チラッとこっちを見る。
「店長、また花咲先輩にサービスしてんですか?」
キッチンにいるおじさんは、穏やかに笑いながら乾き気味のお皿を拭いている。
「常連だからね。それに、七枚くらいのクッキーくらいならさほどダメージはない。
美味しそうに食べてくれれば、僕もクッキーも喜ぶよ」
おじさんは笑顔も口調も穏やかだ。
聞いていたら眠くなってきてしまう。
「クッキー美味しいよ、おじさん!」
「そっか、ならよかったよ」
私たちの会話を聞いているのか、それとも聞いていないのか。
一ノ瀬くんはスケッチブックに目を戻して鉛筆を再び走らせた。
クッキーを二枚ほど食べたところでいい感じに紅茶が冷めた。
二口ほど飲んで、一ノ瀬くんの方を見て口を開いた。
「ねぇ一ノ瀬くん、ケーキ描いてるんだったらまだ食べないほうがいい?」
チョコチップが乗ったクッキーを口に運びながら、一ノ瀬くんに声をかけた。
「別にケーキを描いてるわけじゃないんで、普通に食べてください」
集中しているのか、こちらを見ずにそっけない返事をしている。
まぁ集中している時に話しかけられても、真面目に回答する気にはなれないのはわかる。
「じゃあいただきまーす!」
手を合わせて、フォークを手に取る。ケーキに突き刺して口に運ぶと、苦味が含まれた甘味が舌の上で踊った。
「おいしー!」
やっぱりおじさんの作るケーキは最強だ。
安いし甘いし美味しいし、甘いし。
「…………」
一ノ瀬くんは黙って絵を描いていた。
凄まじい速さで鉛筆を動かしている。
「ねぇ、君もクッキー食べなよ。すっごく美味しいよ」
「僕はお腹空いてないから、全部食べていいですよ」
「そう?」
一ノ瀬くんに許可をもらったので、遠慮なく食べさせていただこうと思う。
いちごジャムの乗ったクッキーを手にとって、口に入れる。
酸味も相まってすっごく美味しい。
「んまー!」
私はクッキーとケーキと紅茶に気を取られすぎていて、
一ノ瀬くんにずっと見られていることに気づかなかった。
「おじさん! ご馳走様でした!」
全部綺麗に食べ終わって、両手を合わせた。
クッキーが最後の一枚になった時、流石に申し訳なくなって
一ノ瀬くんに「本当に食べないの?」と聞いても、「食べない」の一点張りだった。
こんなに美味しかったのに、なんでだろう。
「はい、お粗末さまでした」
穏やかなおじさんの声を聞いて、私は席を立った。
それと同時に、一ノ瀬くんもスケッチブックを閉じて立ち上がった。
「ねぇ、何を描いてたの?」
「言わない」
そう言ってキッチンの奥の部屋に行って、スケッチブックを戻しに行った。
「はい、八百円ちょうどいただきましたね」
レジに小銭を入れると、ガシャガシャという音が店内に響く。
「一ノ瀬くーん! また来るねぇ〜!」
「利益になるもん頼むならいいですよ」
「言うようになったね、生意気後輩……」
キッチンの奥の部屋にいるであろう一ノ瀬くんに手を大きく振って、ニット帽を被って外に出た。
「ぎゃー! 風がー!」
喫茶店の中があったかすぎて、外がめっちゃ寒かったのを完全に忘れてた。
スケッチブックと鉛筆と消しゴムを持っている。
「何か絵を描くの? 描きたいのが見つかった?」
私はたんぽぽをリクエストした。
別にたんぽぽでなくても構わない。
私の、そんなリクエストがあったな、くらいの認識でいい。
そう思いながら紅茶を口にした。ちょっと熱い。
「一ノ瀬くん、どうかしたの?」
おじさんがそう声をかけても、
一ノ瀬くんは「気にしないでください」としか言わなかった。
椅子に座って、足を組んで膝の上にスケッチブックを置いて鉛筆を走らせ始めた。
「何を描いてるの?」
紅茶を冷ましている間にクッキーを一枚手に取って口に運ぶ。
私の言葉に答えるように、チラッとこっちを見る。
「店長、また花咲先輩にサービスしてんですか?」
キッチンにいるおじさんは、穏やかに笑いながら乾き気味のお皿を拭いている。
「常連だからね。それに、七枚くらいのクッキーくらいならさほどダメージはない。
美味しそうに食べてくれれば、僕もクッキーも喜ぶよ」
おじさんは笑顔も口調も穏やかだ。
聞いていたら眠くなってきてしまう。
「クッキー美味しいよ、おじさん!」
「そっか、ならよかったよ」
私たちの会話を聞いているのか、それとも聞いていないのか。
一ノ瀬くんはスケッチブックに目を戻して鉛筆を再び走らせた。
クッキーを二枚ほど食べたところでいい感じに紅茶が冷めた。
二口ほど飲んで、一ノ瀬くんの方を見て口を開いた。
「ねぇ一ノ瀬くん、ケーキ描いてるんだったらまだ食べないほうがいい?」
チョコチップが乗ったクッキーを口に運びながら、一ノ瀬くんに声をかけた。
「別にケーキを描いてるわけじゃないんで、普通に食べてください」
集中しているのか、こちらを見ずにそっけない返事をしている。
まぁ集中している時に話しかけられても、真面目に回答する気にはなれないのはわかる。
「じゃあいただきまーす!」
手を合わせて、フォークを手に取る。ケーキに突き刺して口に運ぶと、苦味が含まれた甘味が舌の上で踊った。
「おいしー!」
やっぱりおじさんの作るケーキは最強だ。
安いし甘いし美味しいし、甘いし。
「…………」
一ノ瀬くんは黙って絵を描いていた。
凄まじい速さで鉛筆を動かしている。
「ねぇ、君もクッキー食べなよ。すっごく美味しいよ」
「僕はお腹空いてないから、全部食べていいですよ」
「そう?」
一ノ瀬くんに許可をもらったので、遠慮なく食べさせていただこうと思う。
いちごジャムの乗ったクッキーを手にとって、口に入れる。
酸味も相まってすっごく美味しい。
「んまー!」
私はクッキーとケーキと紅茶に気を取られすぎていて、
一ノ瀬くんにずっと見られていることに気づかなかった。
「おじさん! ご馳走様でした!」
全部綺麗に食べ終わって、両手を合わせた。
クッキーが最後の一枚になった時、流石に申し訳なくなって
一ノ瀬くんに「本当に食べないの?」と聞いても、「食べない」の一点張りだった。
こんなに美味しかったのに、なんでだろう。
「はい、お粗末さまでした」
穏やかなおじさんの声を聞いて、私は席を立った。
それと同時に、一ノ瀬くんもスケッチブックを閉じて立ち上がった。
「ねぇ、何を描いてたの?」
「言わない」
そう言ってキッチンの奥の部屋に行って、スケッチブックを戻しに行った。
「はい、八百円ちょうどいただきましたね」
レジに小銭を入れると、ガシャガシャという音が店内に響く。
「一ノ瀬くーん! また来るねぇ〜!」
「利益になるもん頼むならいいですよ」
「言うようになったね、生意気後輩……」
キッチンの奥の部屋にいるであろう一ノ瀬くんに手を大きく振って、ニット帽を被って外に出た。
「ぎゃー! 風がー!」
喫茶店の中があったかすぎて、外がめっちゃ寒かったのを完全に忘れてた。
